ハドラーだけじゃない! 『ダイの大冒険』読者のハートを掴んだ「敵キャラたちの泣けるシーン」

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』第1巻 [Blu-ray](エイベックス・ピクチャーズ)

名作と呼ばれるバトル漫画では、味方だけでなく敵も魅力的なものだ。『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)もその例に漏れず、敵なのに読者を感動させたキャラがいる。

代表的なのが、魔軍司令ハドラーだろう。寿命を捨ててダイたちアバンの使徒との決着を望んだ男気や、宿敵アバンの腕のなかで迎えた散り様に涙腺を刺激された人も多いはずだ。

だが、『ダイの大冒険』で読者のハートを掴んだ敵キャラはまだまだいる。そこで今回は敵ながら涙を禁じえない名シーンを担った敵キャラを紹介しよう。

■どんな父親でも愛されたいのが息子…ザムザの最期

まずは魔王軍・妖魔士団「妖魔学士」ことザムザだ。超魔生物研究の一環としてロモス王をたぶらかして武術大会を開かせたところ、ダイたち勇者パーティに遭遇。自ら超魔生物に変身してダイを追い詰めるも、マァムの新技“閃華裂光拳”とダイの“アバンストラッシュ”の前に敗れた。

ここまでなら普通の悪役なのだが、第131話「ザムザ落日に消ゆ…の巻」で彼の印象は大きく変わる。

超魔生物化の代償として体が崩れるなか、ザムザが語るのは妖魔士団長にして自身の父、ザボエラへの思いだった。ザボエラは息子を道具としか見ない父親だったが、「だが、あんな父でも オレの父であることに変わりはない…!」と、ザムザは言う。

最低な親だとしても自分を認めてほしい。そんな気持ちを吐露したザムザは、塵ひとつ残さず消滅した。邪悪な魔族でありながら、その内心は父親に振り向いてほしいごく普通の青年だったのだ。

そして、ザムザの思いを聞いたダイが、「…おれ…なんとなくわかるよ…」と、寂しそうに呟くのも象徴的だ。竜の騎士バランという大きすぎる父親を持つダイの本心が垣間見え、本作における「親子」というテーマの深さを思い知らされるシーンである。

■驚きと感動が混じった「ハドラーサマヲタノム」ブロックの“キャスリング”

次は、ハドラー親衛騎団・ブロックの名シーンだ。オリハルコンで作られたチェスの駒から生まれ、言葉は「ブローム」しか発さない得体のしれない戦士だ。

戦いでは元となった“城兵(ルークまたはルック)”の名にふさわしい怪力と巨体で勇者パーティの手ごわい壁となった。

いわゆる「動きはのろいが力持ち」タイプのキャラだが、第212話「思わぬ伏兵!!!の巻」で、その評価は一転する。

親衛騎団の創造主であるハドラーが大魔王バーンに追い詰められ、今にも殺されそうになる緊迫の場面。ブロックはルークだけが持つ“キャスリング”の能力を行使し、普段からは考えられない超スピードでハドラーを救い出す!

しかし代償としてバーンから致命傷を受けたブロックは、他の親衛騎団メンバーに「ハドラーサマヲ…タノム…!!!」……そう言い残し、微笑みながら爆散するのだ。ブロックが隠していた切り札への驚きと、それを使ってハドラーを救った彼の献身への感動が入り混じる、なんとも印象深いシーンである。

次話でヒムが「やっと覚えて…はじめてしゃべった言葉が…それかよぉぉっ…!!」と叫びながら流す涙に、思わずもらい泣きした読者もいるのではないだろうか。

■造られた命が目覚めたのは…アルビナスの「愛」

ブロックと同じハドラー親衛騎団のひとり、アルビナスも敵ながら胸に染みる活躍を見せた。

本作終盤の舞台となった魔王軍の要塞・バーンパレス最初の戦いは、ハドラー親衛騎団と勇者パーティの総力戦だ。アルビナスはマァムを相手に圧倒しながら、自分が戦う理由を「ハドラーの命を救うため」と吐露する。

ハドラーはこの時点で余命いくばくもない身。アルビナスは勇者一行の打倒を引き換えに、バーンに主の運命を変えてもらおうと企んでいたのだ。

延命を望まないハドラーに嫌われようと、裏切り者の汚名とともに殺されようと、それで構わない。彼さえ生きてくれればそれでいい……なんと悲痛な覚悟だろうか。

だが、アルビナスの命を賭した戦いは、マァム渾身の“猛虎破砕拳”によって幕を閉じる。核を破壊されたアルビナスは、「私の代わりに見とどけて…あの方の…最後の雄姿を…」そうマァムに願いを託し、爆発とともに散っていった。

最後までハドラーを思って戦ったアルビナス。オリハルコンから生まれてきたからこそ、大切な人に殉じた彼女の死に様には胸を打たれる。マァムはアルビナスの気持ちを「人が“愛”と呼ぶもの」と断言したが、まさしくその通りだ。

『ダイの大冒険』における敵キャラの泣けるシーンを振り返ってきた。こうやって見ると「彼らが味方になっていればなぁ」と思ってしまうぐらい素敵なキャラたちだ。

しかし、彼らがこうも輝いたのは「敵だったから」との見方を筆者は推したい。全身全霊でダイたちとぶつかりあったからこそドラマが生まれ、読者の心に強く残る感動を与えてくれたに違いない。

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