今季の県産サクランボ、苦境続く 生育早く、収穫追い付かず

暑さにより一部の実は黒ずみ、しわが寄った状態になっている=東根市島大堀

 今季の県産サクランボの収穫量について、県が20日に当初予想の1万2100トンを下回る見通しを示し、生産現場では厳しい状況が続く。6月の高温で生育が急激に進んだことから収穫作業が追い付かず、廃棄せざるを得ない実が出ているという。関係機関にも生育に関する相談が寄せられており、異常気象への対応に農家は頭を悩ませている。

 寒河江市生まれのサクランボおくて品種「紅秀峰」などを栽培する同市道生の土田一誠さん(34)は、今季の収量を平年の7割程度と見込む。着果状況は良かったものの、6月上旬からの高温や日照時間の長さの影響で、生育が急激に進んだ。収穫作業が追い付かず、「かなりロスが出てしまった。マンパワーにも限界がある」と表情を曇らせる。「(高単価で販売できたとしても)そもそもの収量がなければ、収入に直結してしまう」と切実だ。

 全国の市町村別の生産量が日本一の東根市でも、暑さによる影響が顕在化している。市西部の約2ヘクタールで生産に取り組む石山高広さん(45)=同市島大堀=の園地では、収穫期を見定めていた「佐藤錦」が黒ずみ、しわが寄っていた。木に実ったまま「焼けた」状態になり、贈答用に考えていた実の1~2割は廃棄せざるを得なかった。

 「一番いいところが暑さでやられた。精神的なダメージが大きい」。栽培環境が厳しさを増す中、「わずかな判断の遅れがロスにつながる。商品になる物はできるだけもぎ切りたい」と収穫・出荷作業に追い込みをかけている。

 県農業共済組合(NOSAI山形)には、収入保険に加入する県内のサクランボ生産者から、収穫期に高温が続き、うるみ(実の軟化)が発生したなどの相談が十数件寄せられている。

 同組合収入保険課の長尾直樹課長は「うるみが出た背景には、労働力不足による収穫の遅れもあるようだ。収穫量は、当初見込みを下回るような実態にあるのではないだろうか」と推測する。「1年間の営農が終了し、確定申告が近づくと、相談件数もさらに増えるのではないだろうか」と懸念を示した。

品薄の産直、朝から客殺到  サクランボの品薄状態を受け、産直施設では、朝から行列ができる事態となっている。商品が飛ぶように売れていく状況に、来店客からも驚きの声が上がっている。

 寒河江市の道の駅寒河江チェリーランドでは22日、オープン30分前の午前8時半時点で県外ナンバーの車がずらり。入り口に約50人の行列ができていた。開店すると来場者が産直コーナーへ殺到。一斉に陳列棚へ手を伸ばし、「紅秀峰」などを必死に確保した。開店時に用意された約60箱と約100パック(1パック200グラム詰め)は5分ほどで完売した。千葉市の派遣社員新関珠季さん(41)は「オープン前からこれだけの人がおり、殺気立っていて驚いた。サクランボを買うのがこんなに大変とは」と話した。

 JAさくらんぼひがしね(東根市)の産直施設「よってけポポラ」でも、午前9時の開店前から建物を取り囲むように行列ができていた。贈答用に人気の箱詰めは例年の半分程度の入荷にとどまり、商品は飛ぶように売れていく。毎年購入に訪れる仙台市泉区、会社員佐藤広樹さん(58)は自宅用の袋詰めを確保できたが、「予想以上の混雑ぶりに驚いた」と目を丸くした。よってけポポラによると、今季は既にシーズン終盤で、品薄状態の回復は見通せないという。

サクランボを求めて殺到する来店者=寒河江市・道の駅寒河江チェリーランド

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