黒沢清の映像演出 復讐に燃える小夜子はこうやって作られた 「蛇の道」メイキング映像

黒沢清監督、柴咲コウ主演の、オールフランスロケによる日仏共同製作映画「蛇の道」(公開中)から、メイキング映像が公開された。映像では、静かに復讐に燃える小夜子がアパートで日々の生活をどのように過ごしているのかについて、黒沢監督が小夜子のキャラクターに合わせた動きを演じる柴咲コウに、繊細かつ明確に指示を出している様子が収められている。

黒沢監督の現場はいつもスピーディに撮影が進んでいくが、舞台をフランスに移しても変わらない。俳優にそのシーンの動きだけを説明し、細かい心情や芝居に関する演出をしないのもいつも通りだという。マルシェで購入したであろうレジ袋の中身を見ながら、「(復讐が)始まるまでは、もう少し食べていたのかもしれませんが、始まってからはもう…果物くらいは食べているかも。野菜とか肉を出して調理するという感じではない」と説明する黒沢監督。復讐に燃える人間が豊かな食生活を営むわけはなく、心身ともに研ぎ澄まされた生活を送る小夜子像を柴咲に丁寧に説明している。

「言葉では言い表せられない、人間の複雑さ、曖昧さを表現されるのに長けた、本当に素晴らしい監督だと思う」と語る柴咲も、監督の指示に対してうなずきながら確認し、納得した表情を見せる。日本語とフランス語が飛び交う現場でも、監督を中心とした「黒沢組」が集中して作品作りに取り組む様子を見ることができる。

「蛇の道」は、1998年に日本で劇場公開された黒沢監督による同名サスペンス映画を、黒沢監督自身によってセルフリメイクした作品。何者かによって8歳の愛娘を殺された父アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)は、偶然に出会った精神科医の新島小夜子(柴咲コウ)の協力を得て、犯人を突き止め、復讐することを生きがいに殺意を燃やす。とある財団の関係者を2人で拉致していく中で、真相が次第に明らかになっていく。精神科医・新島小夜子役を演じるのは柴咲コウ。殺された娘の復讐に燃える男・アルベール役をダミアン・ボナールが演じる。

オリジナル版「蛇の道」で主演を務めた哀川翔らのコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【コメント】

■役所広司
黒沢監督の映画は、我々を惑わし、引き付けて離さない、魔力がある。
2時間呼吸を忘れ、この後何が起こるのか目が離せない。
画面に映ってないものへの恐怖がジワジワと押し寄せて来る。
フランス語でフランスの名優たちと渡り合う柴咲さんの逞しい姿は、とても美しい。

■哀川翔
これぞ、黒沢映画。小夜子の淡々と突き進む冷静な日常、復讐の矛先が何処に行くのか、最後まで目を離せませんでした。

■前田敦子
黒沢監督の生み出す世界はやはり唯一無二。
フランス語、眼差しと立ち姿、柴咲コウさんの全てから目が離せなくなる存在感。
物凄く静かに熱を帯びたなにかが心に迫ってきます。

■大島育宙 (芸人/映画・ドラマ評論)
セルフリメイクの結果、
黒沢清濃度が明らかに倍増した!
半透明のカーテン、無機質な廃墟、車、テレビ画面…
あらゆるお馴染みの記号が鋭く必然的に配列される。

柴咲コウが東京とテレビ電話を繋ぎながら
PC画面の前から去った時、
やはり画面を1番恐ろしいと思っているのは
黒沢清その人なんだな、と胸がいっぱいになった

■ビニールタッキー(映画宣伝ウォッチャー)
終始不穏で気味が悪い!しかし事の真相はさらに気味が悪い。暴走する復讐心の行き着いた先は底の見えない人間の闇だった。善意の裏に隠された真意が、蛇のような目で私たちを見つめる。

■人間食べ食べカエル(人喰いツイッタラー)
冷たく無機質な映像に体温を奪われる。だが最も冷徹で恐ろしいのは、柴咲コウの目。あの恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。蛇に睨まれた餌の気分ってこんな感じなんだろうな。今でも彼女の表情が頭の中から消えない。

【作品情報】
蛇の道
2024年6月14日(金)より全国劇場公開中
配給:KADOKAWA
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