山邊鈴さんが続ける「旅」 留学、銭湯でインターン…常識「殴られ」見えた目標 長崎

長崎市で講演する山邊さん=長崎市

 普段の生活では絶対に交わらない人たちと交流し“殴られる”経験をしてきた。米ウェルズリー大3年の山邊鈴(りん)さん(22)=長崎県諫早市出身=。中学時代からアジアなどに単身渡り、そのたびに「自分の中の常識が覆されてきた」。途上国の貧富の差、日本社会の分断、性自認の多様さを知った米国留学-。10年近くの活動の「旅」は現在進行形で続いている。
 幼いころ抱いていた将来の夢は国連職員。被爆者や世界の恵まれない子どもたちの存在を知り、自分の中に一つの軸が生まれた。「私が今、ここに生きていることは当たり前ではない。社会のため、困っている人たちのために働きたい」
 旅は、自分が納得できる生き方を探るために始まった。県立諫早高付属中2年の時、スイスの国連機関を訪問。同3年の夏、フィリピン・マニラ市を訪れ、過酷な環境で暮らすストリートチルドレンを取材した。
 諫早高に進学後、地域おこしを目指す学生団体をつくり「人と人をつなぐ」活動の面白さに気付いた。「中高生による中高生のため」の音楽イベントを開いたり、新しい地元グルメを考案したり。2年の時、約1年間、インドに留学。スラム街の子どもをモデルにしたファッションショーを開く際、交流サイト(SNS)で衣装を募ると各国から多数寄せられた。子どもたちが世界につながる経験にこだわった。
 新型コロナウイルスが社会を襲ったのは、国内外での活動に明け暮れていた時だった。2020年春、諫早に戻ると「ステイホーム」一色の毎日。3年になり、東京にいる友人に宛てた文章をインターネットのプラットフォーム「note(ノート)」に投稿した。障害のある人、ひとり親家庭、学力差-。幼いころから身近にいる「声を聞かれづらい人たち」をありのままつづった。見えづらかった社会の格差と分断を可視化したのが、大きな反響を呼んだ。
 米国の名門女子大に留学してからも“殴られる”経験は続いた。学生の6割が性自認が女性ではない、または恋愛対象がストレートの男性ではないという環境に身を置き、「今までの人生を通して抱いていたものは、何一つ当たり前ではない」と思い知った。
 「人がともに生きていることを知りたい」。20歳の時、大学を休学して東京の老舗銭湯に飛び込んだ。インターンとして働きながら目的を持たずに、ただそこに身を置くことに決めた。「組織を取り巻く地域や金回り、人的資本が見えてきて、少しは大人の視点で社会を見られるようになったと思う」
 さまざまな旅や“殴られる”経験を通して、自身の目標がより具体的になった。「自分が見ている世界が全てではない。その声を聞く責任を負う人になりたい」。国家公務員総合職(旧Ⅰ種)試験に合格。再び米国に渡る。
 「誰もが『なんかここにいてもいいかも』と思える社会をつくりたい」。大学で社会福祉を学び、相互ケアを前提にした社会形成の必要性を痛感した。それを実現できるのが国家公務員。「日本で一番泥くさい職業だと思う」

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