矢部太郎の「光る君へ」ユニークなイラスト話題!「リアルタイム視聴が鉄則」

第25回より、きぬ(蔵下穂波)と乙丸(矢部太郎) - (C)NHK

吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)では、ファンが登場人物や風景を描いては「#光る君絵」のハッシュタグをつけてSNSに投稿するファンアートが広がっている。ドラマで主人公まひろの従者である乙丸を好演する、芸人、漫画家の矢部太郎もこの取り組みを続ける一人で、毎回彼が描くユニークで心温まる絵が反響を呼んでいる。矢部が、絵に込めた思いやこだわりを語った。

大河ドラマへの出演は、2004年放送の「新選組!」(※阿比留鋭三郎役)以来となる矢部。本作で演じる乙丸は、主人公まひろが幼いころから共に過ごしてきた従者。自由奔放なまひろに振り回されることしばしばで、現左大臣・藤原道長(柄本佑)との深い仲を知る数少ない人物でもある。2日放送・第22回でまひろが越前守となった父・為時(岸谷五朗)に伴い越前に渡った際には、もちろん乙丸も同行した。16日放送・第24回ではまひろが乙丸に「お前はなぜ妻を持たないの?」と問う場面があり、乙丸は「あの時わたしは何もできませんでしたので」と、かつてまひろの母ちやは(国仲涼子)が藤原道兼(玉置玲央)に殺害された事件を思い返しながら、「せめて姫様だけはお守りしようと誓いました。それだけで日々精一杯でございます」と胸の内を明かした。

矢部はそんな乙丸の胸中に「乙丸には為時様、まひろ様にずっと忠義の心があって、生活が苦しくなってどんどん従者が減っていく中でも残って。それはやっぱり御方様(ちやは)が亡くなってしまった時に、自分もその場にいながら一切役に立てなかったことへの贖罪の気持ちがずっとあるからだと思うんですよね。そうした中で、まひろ様には健やかに育ってほしい、幸せになってほしいなっていうことが、自分のことよりも優先なんじゃないかなと思います」と思いを巡らせる。

そんな乙丸に、第25回では恋人ができた。きぬ(蔵下穂波)という海女だ。矢部自身、この展開には驚いたというがこの出会いも実はまひろのためにとった行動の延長線上にあるという。

「本当にびっくりしましたね僕も。そんなことがあるのかと。その前には“姫様をお守りするだけで精一杯”みたいなことを言っていたのが、急に……。人間って面白いなって。でも、それも乙丸が姫様のためにウニを求めに行った先の出会いだったわけで。きっと姫様にいいウニを届けるためにきぬと仲良くお話していたんでしょうね。で、気がついたらなんか付き合っちゃったみたいな」

一方で、矢部が毎回放送後に自身のSNSに投稿する「光る君絵」も話題だ。投稿することになったきっかけについて矢部は「皆さんの絵を見て嬉しい気持ちもあるので、僕も参加したいなと思って。僕、朝ドラの『スカーレット』の時にも描かせていただいていて、今回(『スカーレット』に参加していた)制作統括の内田ゆきさんや演出の中島由貴さんなどがいらっしゃって、“矢部くん、また描いてくれないかな”と言われたりもしたので描き始めたんです。描いてはいたんだけど、その後、全然見たとか言われなくて、この間初めて中島さんに“あれよかったですね”みたいに言われて、ああ見てくれたんだと(笑)」

矢部が描く絵は、場面のユニークな切り取り方が注目を浴びている。劇中のシーンをそのまま絵に起こすというわけではなく、登場人物の後ろ姿や手など部分的な描写が多い。例えば、追い詰められた藤原定子(高畑充希)が衝動的に髪をおろしてしまった第20回では、のど元に刀を当てる定子が描かれ、その刀には心配のあまり仮装して潜入していた清少納言(ファーストサマーウイカ)とまひろの姿が映っている。緊迫感とユーモアが混在したシーンの特徴を一枚絵で切り取った見事な構図だ。

「なんか観て思ったことをそのまま描いている感じかもしれないですね。印象を絵にするっていうか。例えば、第20回のシーンはああいうシーンだったなって僕は思ったんですよね。清少納言とまひろ様のユーモラスなところから始まって、ああいうショッキングなことがあって。言葉で説明するのは難しいんですけど、まひろ様の背中とかを描くことが多いかもしれないですね。そう考えると乙丸の目線っていう感じかもしれません」

第5回でまひろが道長と密会するシーンは廃邸だったのが、矢部の絵では情景が竹林へと変えられている。「あれは初回で道兼がちやはを刺した時の話をまひろ様が道長にお話するところですよね。だから、その時の竹林と廃邸を重ねて描いたという。伝わらないかもしれませんが、僕はそういうふうに感じてそういう絵にしましたけども、わからなすぎたかもしれないなと反省していました」

絵のテイストは毎話ごとに異なるが、総じて貫いているのが「ユーモア」。第18回では清少納言とまひろが巨大なかりんとうの上で歓談する絵になっている。「物語の中では悲しいことがいっぱいあるから、ユーモアのある絵もあったらいいかなと思って。かりんとうは、単純に美味しそうだなと思ったというのもあります。食べたいなって(笑)」

絵はなるべく放送日に描くようにしているというが、あらかじめ試写などで作品を視聴することなく視聴者と共にリアルタイムで視聴してから描くのがマイルールだと矢部。一回につきどのぐらいのスパンで描き上げているのか?

「BSなどで観られたら早く描けるのですが、観られなかったら本放送が終わってからですね。すぐに絵が思いつくかはケースバイケースです。描けないで寝て、でもなんかやっぱり描こうかなと思い立って描き出す……とかいうときも。皆さん、放送を観て描いていらっしゃるので僕も、基本的には放送を観て描いていますね。本当は完パケ(完成した作品)があるから早く観られるんだけど、それってずるいじゃないですか」と、あくまで視聴者目線を貫いていることを強調した。

現在、矢部の初の大規模展覧会「ふたり 矢部太郎展」が立川・PLAY! MUSEUMで7月7日まで開催中。80歳を超す大家さんとの出会いから別れまでを描いた漫画「大家さんと僕」(2017)をはじめ、父である絵本・紙芝居作家やべみつのりとの思い出など幼少期の作品も展示されている。(編集部・石井百合子)

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