『虎に翼』で石田ゆり子はなぜこんなに輝いたのか 紆余曲折を繰り返す物語に安定感を与えたヒロインを導く母

石田ゆり子(C)ピンズバNEWS

伊藤沙莉(29)主演のNHK朝ドラ『虎に翼』(月~金曜)の第13週「女房は掃きだめから拾え?」が、6月24日から放送される。第12週「家に女房なきは火のない炉のごとし?」 では、主人公・寅子(伊藤)の母・はるを演じる石田ゆり子(54)に注目が集まった。

同ドラマは、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となった三淵嘉子さんをモデルにした、昭和の法曹界が舞台のオリジナルストーリー。 寅子は東京家庭裁判所判事補に任ぜられ、ついに裁判官になったが、再会した明律大学女子部の仲間とのギクシャクした関係や、家庭内の問題など、先行きはまだまだ不透明。そんな中、はるの存在感が増していたのだがーー。

第12週(6月17~21日)は、スリの少年たちのリーダー・道男(和田庵/18)が補導され、トラックで家庭裁判所に運ばれてくる。心配した寅子は、彼を猪爪家で預かることにするが、道男は財布を盗んで逃げようとする。そこではるが、はした金を盗むより三食あってあたたかい布団で寝る方が良いと説得。道男は納得し、風呂を炊いたり家の手伝いをするようになった。

しかし、道男が花江(森田望智/27)に言い寄ったため、息子たちが殴りかかる。そこにはるも駆けつけたが、道男を冷たい目で見てしまったため、道男は「結局そんな目で見てくんのかよ」と言い残して出ていく。その後、道男の消息が分からないまま10日過ぎたころ、はるは花江に、道男は息子の名前の候補だったので、勝手に息子に重ね合わせていたと告白した。

最後は、はるが心臓発作で倒れ、家族に見守られながらやすらかに息を引き取った。X(旧ツイッター)上では、《家族とのことを丹念に手帳に書き留めていたはるさんが、最後に「もう一人の家族、道男」に生きる道を示す。寅子が思いのまま羽ばたけたのは、はるさんのおかげ。子を思う、家族を思う親の気持ちに涙》など、はるへの称賛の声が相次いでいた。

■『虎に翼』に必須だったはる・石田ゆり子の存在

「今週の寅子(伊藤)が家族の同意なしに道男を預かろうとしたエピソードのように、本作は、寅子が何かに向かって突き進んでいく物語ではなく、ひたすら紆余曲折を繰り返していくのが特徴です。そんな物語で、はる(石田)はたびたび向かうべき方向を寅子に示す重要な役割を担ってきました」(ドラマライター/ヤマカワ)

寅子は、苦労して弁護士資格を取得したのに、妊娠をきっかけに法律事務所に辞表を提出。結婚を拒否していたかと思えば、社会の信用を得るために優三(仲野太賀/31)と結婚。その後、優三との愛が芽生えるが、戦争によって失ってしまうと紆余曲折の連続だ。物語自体が不安定なところもある。

「その不安定さは朝ドラヒロイン定型を外すため、あえて狙ったものでしょうが、そのままでは物語が迷走してしまう。そこで、ヒロインを導く存在が必要なのですが、それが母・はるで、法科進学を後押しし、終戦後、夫を亡くして心がズタズタになった寅子を励ました。石田はやわらかさの中にも、しっかりとした芯を感じさせる女性を演じることができます。寅子と家族たちの師のような立場のはるは、まさにはまり役だったといえるでしょう」(前同)

そんな頼れる存在だった、はるが退場してしまった。はるが10年先の猪爪家まで見すえていた日記のとおり、寅子が大黒柱として、花江が主婦として、2人で支え合っていくのだろうが、それだけでは、寅子の直情的な振る舞いを軌道修正するのは難しそうだ。

次週予告では、三男を連れて家を出ていた梅子(平岩紙/44)との再会シーンに加え、「俺には分かってたよ」と、戦死したはずの兄・直道(上川周作/31)の口癖が聞こえてきた。誰がはるの代わりに寅子を支えるようになるのか、今後の展開に注目したい。

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