【社説】梅雨入り 過去の教訓生かし備えよう

 中国地方が梅雨入りした。広島県などは過去3番目に遅い時期となったが、早くも大雨が続いている。身を守る備えを本格化する必要がある。

 きのうは広島県や島根県など中国地方の広い地域で大雨警報が発表され、尾道市では警戒レベル4の避難指示が出た。

 民間気象会社ウェザーニューズは、梅雨明けの時期を全般に平年並みと予想する。中国地方は7月19日ごろに当たり、期間は短くなりそうだ。一方、気象庁は降水量を「平年並みか多い」とみている。土壌に水がたまれば土砂災害が起きやすくなる。例年以上に警戒を強めたい。

 近年、梅雨の時季に災害が相次いでいる。主な要因となっているのが線状降水帯だ。積乱雲が次々に発生して連なり、集中豪雨をもたらす。

 気象庁は発生可能性を約12~6時間前に伝える「半日前予測」を発表している。5月には、対象の地域を地方単位から府県単位に絞り込んで、より身近に受け止められるようにした。スーパーコンピューターを駆使して精度を改善している。

 ただ線状降水帯は、気象条件や地形などに複雑に左右される。不明なメカニズムもあり、予測が難しい。2023年は23回発生した。22回予測を出したうち「的中」は9回。予測できない「見逃し」が14回あった。線状降水帯が発生しなくても大雨になることは多い。予測が出されたら、心構えを一段と高めるようにしたい。

 気象庁はホームページ(HP)の地図上で、土砂災害や浸水、洪水の危険度分布(キキクル)を表示している。信頼できる機関の情報を基に、落ち着いて行動する習慣をつけることが大切だろう。

 梅雨の時季に中国地方は大きな被害を受けてきた。18年7月の西日本豪雨は、災害関連死を含めた広島県内の犠牲者が150人を超えた。今年は県内139カ所で土石流が起き、32人の死者・行方不明者を出した6・29豪雨災害から25年の節目でもある。

 梅雨の時季ではないが、14年8月の広島土砂災害は広島市の住宅地を土石流が襲った。災害関連死を含め77人が亡くなり、線状降水帯が注目されるきっかけになった。繰り返された被害の中には、事前の準備や当日の対応によって食い止められたものもあったのではないか。

 過去の経験を教訓にしなければならない。まず正したいのは、危険に対する意識の持ち方だ。

 大雨で避難する重要性を理解していても、実際に直面すると「自分は大丈夫だろう」「大したことはないはず」と受け止めがちなところがある。正常性バイアスと呼ばれる心理だ。災害の被害者になり得るという意識が、身を守ることにつながる。

 地域の単位で効果を発揮するといわれているのが「率先避難者」の存在だ。誰かが「自分は逃げる」と声をかけながら動き出せば周りの人も付いていきやすい。避難場所や経路、家族との連絡手段なども改めて確認しておこう。

© 株式会社中国新聞社