グーグルマップ「口コミ」裁判で悪質投稿者に記事削除と200万円の支払い判決も… VS“巨大プラットフォーム”法律的な争いの見通しが明るくない理由

グーグルマップ「口コミ」裁判で、大阪地方裁判所は投稿者に記事削除と200万円の支払いを命じた(LOCO / PIXTA)

グーグルマップの「口コミ」に対する裁判で、大阪地方裁判所が投稿者に記事削除と200万円の支払いを命じた(5月31日付)。同裁判では、兵庫県の眼科医院の院長が虚偽の書き込みをされたなどで評判を落とされたとして、投稿者に賠償などを求めていた。

グーグルマップVS医師。4月に医師らがグーグルを相手取り、集団訴訟を提起したばかりというタイミングもあり、注目を集めた同判決。そうした中で、御の字といえる結果を手にしたかにみえるが、ここにたどり着くまでに3年を要している。医院側の代理人を務めた壇俊光弁護士は率直に司法に対する不満をにじませた。

「とにかく時間がかかり過ぎます。グーグルに対する発信者情報開示仮処分、発信者情報開示・削除請求訴訟、IPアドレスの開示を受けてISPへの照会、発信者情報開示請求訴訟など手続きは多数。それぞれが無駄に慎重で、時間がかかっています。なかでも、グーグルに対する訴訟提起は、神戸地裁尼崎支部に提起したが、裁判所のネットの誹謗(ひぼう)中傷に対する無理解・不見識が著しく、いたずらに時間がかかった」

グーグル相手の裁判の一審では敗訴しているが「他のコメントではいい事も書かれているから」と受忍限度内であることが大きな理由であった。控訴の結果、高裁では発信者情報開示については認めたものの「削除は本人に請求できる」として、削除を命じなかったことも不服だった。

これらの判断は、ネットの誹謗(ひぼう)中傷の性質と真剣に向き合えば、いかに軽薄か容易に想像がつくはずだ。そうした視点さえない裁判所のスタンスが腹立たしかった。

グーグルマップ口コミ問題が”悪質”な理由

昨今、グーグルマップの口コミによって多くの企業が経営的に大きなダメージを被っている。同サービスが問題視される理由として共通するのは、「書かれた口コミが”虚偽”であっても簡単に削除してもらえないこと」だ。

客商売をしていれば、口コミでよく書かれることもあれば悪く書かれることもある。だが、明らかに”虚偽”であっても、削除してもらえないケースもあり、たとえ削除されても多大な時間がかかるケースがほとんどという。

グーグルに対し、4月に集団訴訟を提起した「Google口コミ被害者の会」も、訴訟で訴えたいことのひとつとして、「全くのうその口コミが投稿されることも珍しくなく、このようなうそも受忍限度の範囲なのでしょうか」と指摘し、問題提起している。

グーグルの口コミの”虚偽性”広まったことが成果

本件裁判はこうした不条理・不公平との戦いでもあり、壇弁護士はとうてい今回の結果に満足はしていない。

「正直、この種の相談は多く、裁判例もかなりあるので、今回の判決でみなさんが騒がれていて驚いています。(今回の判決が医師らの集団訴訟等への動きに一石を投じる形になったが)あんまり、動かないでしょうねぇ。裁判所は、なぜかGAFAの肩を持ちがちですから。成果があったとすれば、グーグルの口コミには虚偽のものも結構あると広まったことかもしれません」

法律の不備を改める必要性

決してあきらめているわけではない。むしろ、問題の本質は見定めている。壇弁護士が指摘する。

「現状の削除の基準は、実体法に委ねられていて、虚偽性の立証まで必要なのか、受忍限度の範囲なのか、それとも、他にあるのか等が毎回争われます。どのような基準を採用するかは担当した裁判官の運次第で、その結果、今回の裁判官のような不合理な判断がされることがあります。ネットにおける誹謗中傷に対して、いかなる情報であれば削除しなければならないのかを、法律で明確にする必要があると思います」

併せて、今回弁護を担当した医療系の口コミ投稿について、なにをもって権利侵害とするかの線引きを明確にする必要性を訴える。

「発信者情報開示については、権利侵害が『明らか』であることが必要で、名誉毀損の場合は、投稿内容が真実ではないことの立証が求められます。具体的には、病院でこのようなおかしな治療を受けたという形の誹謗中傷のケースでは、そのような治療をしていないという立証が求められます。投稿者が特定出来ている場合は、その人のカルテを出せば立証できますが、発信者情報開示請求手続きの場合、投稿者は匿名なのでカルテが特定できない。しかし、過去のカルテ全てをあたるというのは非常に困難なので、反真実性の立証ができていないとか言われる。これは立法時から指摘されている法の不備で『明らか』な要件を見直す必要がある」

巨大プラットフォームの口コミ問題の行く末

法律面では、ネット上における誹謗(ひぼう)中傷の深刻化を受け、2022年10月より改正プロバイダ責任制限法が施行されている。それにより開示請求できる範囲が見直され、新たな裁判手続き(非訟手続き)も創設。より短いステップで発信者を特定できるようになった。

だが、壇弁護士は、改正法にもなお不備があると指摘する。

「正直なことを言えば、新しい裁判手続きはあまり使えません。グーグルなどは間接強制(※)の手続きをしないと何か月も情報開示しないのですが、新しい手続きの開示命令は開示仮処分より、間接強制の申立てが可能になるのが遅いのです」

※債務を履行しない義務者に対し,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に間接強制金を課すことを警告(決定)することで義務者に心理的圧迫を加え,自発的な支払いを促すもの

巨人IT企業のアンフェアネスと煮え切らないルール。壁を突き破るには時間を要しそうだが、動き続ける先にしか、突破口はない――。

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