YouTubeやTikTokで「替え歌」を使っていいか? 笑福亭鶴光のラジオ番組「不適切な替え歌」が物議

「鶴光の噂のゴールデンリクエスト」公式サイトより(https://www.1242.com/tsuruko/)

今年3月15日に放送された落語家の笑福亭鶴光(76)のラジオ番組「鶴光の噂のゴールデンリクエスト」で、「公共の電波で流すには著しく不適切」な内容があったとして、ニッポン放送が6月16日、公式サイトで謝罪した。

謝罪文によれば、ピンク・レディーの替え歌を放送したが、「その歌詞の内容はあまりに低俗であり、公共の電波で流すには著しく不適切なものでした」としている。さらに「当該放送を聴かれて不快に思われたリスナーの方も多数いらっしゃると思います。何より、往年の名曲を手掛けられた作曲家の都倉俊一先生、作詞家の阿久悠先生をはじめとするご関係者の皆様に多大なご迷惑、ご不快をかけるものでした」として平謝り。

「替え歌の内容は明らかにされていませんが、『笑福亭鶴光の噂のゴールデンリクエスト』の替え歌コーナーは、下ネタで有名なコーナーでした。3月15日の放送では、ピンク・レディーの『UFO』から始まる3曲のメドレーで替え歌を歌いましたが、3曲とも都倉、阿久両氏の作詞作曲だったそうです。おそらくクレームが入り、謝罪に至ったのだと思われます」(夕刊紙芸能担当記者)

騒動を伝えたニュースのコメント欄には、「鶴光の番組って昔から低俗だった」、「もともと不適切のオンパレードやん。何を今さら」などの書き込みであふれ、〝下ネタ上等〟で昭和の深夜放送の匂いを残す鶴光師匠のラジオの存続を心配する声もあがっていた。

替え歌の法的問題はある?

そもそも、替え歌を作成し、公開する場合、著作権など法的な問題はあるのだろうか。さる法曹関係者はこう話す。

「替え歌は、まさに著作権法上の問題が生じます。 歌はメロディーと歌詞それぞれの著作権が組み合わさって成立しているもので、その両方の著作権に気を付けなければなりません。YouTubeやTikTokなどで、替え歌を披露する場合も同じです」

著作権は、「著作権」「著作者人格権」「著作隣接権」の大きく3つに分類されるが、替え歌に関係してくるのは、著作権法20条1項の「著作物を自己の意に反して改変されない権利」、すなわち「同一性保持権」であるという。

「かつて、替え歌で『同一性保持権』が問題になった例としては、2023年4月にお笑い芸人のパーマ大佐が、『森のくまさん』の歌詞に新たな歌詞を書き加え、パロディーネタとして披露した件がありました。元来、『森のくまさん』はアメリカ民謡ですが、日本語訳を手がけた馬場祥弘氏が、著作権の『同一性保持権』を主張し、販売差し止めと慰謝料を求める通知書をパーマ大佐サイドに送ったのです。結局、訴訟には至らず、『パロディー』という認識で和解しました」

楽曲の動画配信には許可が必要だが…

米国の著作権法では、パロディーは〝フェアユース〟として認められているが、日本の著作権法ではパロディーに関する明確な規定はない。そのため他人の楽曲の替え歌を公開することは、常に著作権侵害のリスクがあるという。

「日本のテレビ局やラジオ局は、包括規定があるので、楽曲を放送すること自体は日本音楽著作権協会(JASRAC)にいちいち許可を取らなくていい契約になっています。しかし、誰もが配信などが簡単にできるようになった今、YouTubeやTikTok、ライブ配信アプリなどでの配信は、本来、楽曲には権利者がいるので、配信に関する許可が必要です。しかし、これが替え歌となると案外、グレーゾーンになってしまい、無意識に権利侵害をしてしまっているYouTuberなどが散見されます」(前出の夕刊紙記者)

下ネタはラジオ文化!?

一方、今回、ピンク・レディーの楽曲にクレームが入ったとすれば、その理由について、前出の法曹関係者はこう付け加えた。

「著作権法113条6項の『著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。』に抵触した可能性があるんでしょうね。パロディーと言ってもあまりにひどい下ネタでさすがに許せなかったということでしょう」

パロディーでも下ネタは絶対NGとは、なかなか息苦しい世の中といえそうだが、明石家さんま(68)も、鶴光の件を受け、MCを務める「ヤングタウン土曜日」(MBSラジオ)で、「なんかなあ、寂しい」と語った。

「ヤングタウン」でも昨年まで素人の女性にセクシーなセリフを言わせるコーナーがあり、「あの時は問題別になかったもんな。そういう時代もあるんで、ラジオらしいラジオ、深夜のラジオのファンが喜ぶようないい物が、ご時世的にいろいろ難しいねんな」として避けられない時代の変化を嘆いていた。

「鶴光師匠の替え歌は、しょうもない下ネタも多いが、ラジオ文化の一側面として支持されてきた部分はあるんです。杓子(しゃくし)定規なコンプラ一辺倒になるとそういう文化も廃れてしまいます。一方で替え歌が専門のミュージシャンの嘉門達夫などは、楽曲の著作権者にはすべて許可を取っているといいます。一般の人もYouTubeなどで替え歌を使用する場合は、〝みんなやってるからいいだろう〟と思わずに、JASRACや音楽出版社に確認をとったほうが安全だと思います」(前出の記者)

ともあれ、「パロディー」として替え歌を作り、配信などをする際は注意が必要だ。

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