進まぬ生家の相続 親族で係争も、宙に浮き…途方に暮れる五島の男性<しまい方のかたち・2>

複数人の共有財産のままになっている山口さんの生家=五島市内

 「子どもたちに厄介な問題を引き継ぎたくないのだが…」
 五島市内の山口清さん(75)=仮名=は亡き父親が残した生家を眺めながら力なく話す。今は空き家となり、夫婦で近くに住みながら管理。築60年以上が経過し、瓦飛散防止のために安全ネットをかぶせ、定期的に安全対策を施す。
 長男の山口さんは地元の高校を卒業後、関西地方で就職、結婚し家も建てた。だが、母親から「戻ってきてほしい」と促され、2008年に妻とUターン。子ども2人は生まれ育った関西が拠点で、五島で暮らす意向はないという。
 建物の管理以上に、頭を悩ませているのが遺産相続の問題だ。生家の建物は山口さんと4人のきょうだい、他界している別のきょうだいの家族を含めた計9人の共有財産のまま。このほか、今は亡き母親が建てて、山口さん夫婦が現在住む家や、賃貸用住宅3棟なども同じ状態という。
 遺産分割協議が成立するまでの間は「相続人全員」の共有財産という位置付け。固定資産税はそれぞれに支払い義務があるが、「代表相続人」として山口さんが代理で納付を続けている。遺産の分配やこれまで支払ってきた固定資産税の負担を巡って、きょうだいらとの話し合いや係争を経たものの、最終的にはまとまらず現在も宙に浮いたままだという。
 「年を取ると気力もなくなり、もうどうにでもなれという心境」と山口さん。「だが、このまま放置しておくと、権利者が増えて妻や子どもたちにも迷惑がかかる」と途方に暮れる。
 こうした親族間の問題などを背景に、相続登記が何世代もなされない結果生じる「所有者不明土地」が全国的に増加。2022年度の地籍調査事業に基づいて不動産登記簿だけでは所有者の所在が判明しなかった土地の割合は国土交通省の調べで24%に上り、九州の面積に匹敵する。解消を図ろうと不動産の相続登記が今年4月、義務化された。
 相続手続支援センター長崎(長崎市)には年間約200件の相談が寄せられるが、相続登記に関するものが半数を占める。特に親の未婚のきょうだいが亡くなったケースで「親戚付き合いが疎遠で、他に誰が相続人か分からない」といった相談が目立つという。
 統括相談員の貞松淳子さん(60)は「放っておくと戸籍をそろえるだけでも時間と費用がかかり、子や孫の世代に迷惑をかける。相続が発生したら、より速やかに手続きをしていただくことが必要」と警鐘を鳴らす。

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