乱入者逮捕劇は「すごかった」が、シェフラーの今季6勝目は「もっとすごい」【舩越園子コラム】

健闘をたたえあうシェフラー(右)とトム・キム(撮影:GettyImages)

PGAツアーの今季8つ目、そして今季最後のシグネチャー・イベントとなった「トラベラーズ選手権」は、「すごい」「素晴らしい」のオンパレードだった。

米コネチカット州コムウェルのTPCリバーハイランズでティオフした選手の大半は、「メモリアル・トーナメント」と「全米オープン」に続き、3週連続の試合出場だったが、初日から首位を走っていたトム・キム(韓国)は実に8週連続という超ハード・スケジュールをこなしつつ、優勝争いに絡んでいた。

しかし、最終日は世界ランキング1位のスコッティ・シェフラー(米国)が見事なアイアンショットと冴え渡るパッティングでキムを捉え、ついには単独首位へ浮上。1打リードで72ホール目を迎えたシェフラーがグリーンを捉えると、キムはピンそばを捉える快打を放ち、大観衆を狂喜させた。

その直後、予期せぬ出来事が起こった。発煙筒のようなものを持った男性が18番グリーンに突進してくると、さらに3人が次々にグリーンに乱入し、赤と白のパウダーをグリーン上に散布。しかし、瞬く間に8名から10名の警官が駆け寄って、4名の乱入者全員を制圧し、手錠をかけて連行していった。

乱入者の目的は、地球温暖化による異常気象の下でゴルフの試合が開催されていることに対する抗議だそうで、逮捕された一人は「NO GOLF ON A DEAD PLANET(死んだ惑星の上でゴルフをするな)」と記されたTシャツを着ていた。

ともあれ、素早い逮捕劇を目にした大観衆は「すごい!」と驚嘆し、「USA!USA!」を連呼しながら地元警察のプロフェッショナルな仕事ぶりを讃えていた。

PGAツアーのルール・オフィシャルとコース管理スタッフの対応も素晴らしかった。赤や白のパウダーが散布されたエリアや乱入者たちの足跡でダメージを受けた箇所が最終組のシェフラー、キム、アクシャイ・バティア(米国)のパットのラインにかからないことを確認したルール・オフィシャルは「72ホール目は、そのまま続行」を即座に決めた。

そして、シェフラーがパー、キムがバーディパットを沈めてサドンデス・プレーオフ突入が決まると、2人がアテストを行なっていた間に、ルール・オフィシャルらはグリーン上の損傷個所の影響を最小限にとどめるために、グリーン手前側に新たにカップを切り、プレーオフに備えた。

乱入劇によるプレー中断は、わずか5分。警察とツアー&大会スタッフの対応は、本当に素晴らしかった。

サドンデス・プレーオフは、2打目をバンカーに入れ、ボールがほぼ半分が砂に埋まるほどの目玉になったキムがパーセーブに失敗した。一方で、シェフラーはしっかりピン2メートルに付け、2パットのパーで勝利。

プレーオフ1ホール目でのスピーディーな決着は、あっけない幕切れのようにも感じられたが、予期せぬ事態に心を乱されることなく、好プレーを続けた彼らの精神力と集中力は「すごい」の一言。さすが世界のトッププレーヤーだと感じさせられた。

だが、何より誰より“すごい”のは、やっぱりシェフラーの今季の成績である。

この優勝は今季6勝目、通算12勝目。そして、「アーノルド・パーマー招待」、「RBCヘリテージ」、メモリアル・トーナメントに続く今季4つ目のシグネチャー・イベントの勝利となり、それ以外の2勝はメジャー大会の「マスターズ」と第5のメジャー「ザ・プレーヤーズ選手権」。まるでビッグ大会ばかりを狙い撃ちしたかのように勝利を挙げたことになる。

今大会の優勝賞金360万ドルを加え、今季は、まだ6月だというのに、すでに2769万ドル(約44億2250万円)を稼ぎ出しているのだから、これは「あまりにもすごい」稼ぎっぷりである。

それでも決して奢らず、高ぶらず、ナイスガイぶりを見せるところがシェフラーらしい。「優勝できて本当に良かった。トム・キムは素晴らしい選手だ。試合の大詰めで、あんな乱入事件が起こったのは残念だったが、トムと僕はお互いに声を掛け合い、心を落ち着け、リラックスしようと努めた。それにしても、ポリスの素早い対応は、すごかった」。

いやいや、確かにポリスはすごかったが、一番すごかったのは、やっぱりシェフラーの勝ちっぷりだった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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