日本は「多様性を受け入れない」? NYで暮らす「駐夫」が感じたアメリカとの違い

さまざまな人種や民族が暮らすニューヨーク(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

誰もが幸福に自分らしく暮らせるために重要な多様性。日本ではその取り組みが遅れているとしばしば聞くことがあります。妻の海外赴任に伴い、ニューヨークで駐在夫、いわゆる「駐夫(ちゅうおっと)」になった編集者のユキさん。この連載では、「駐夫」としての現地での生活や、海外から見た日本の姿を紹介します。第9回は、ニューヨークの多様性についてです。

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イスラム教徒専用のマッチングアプリ!?

ダイバーシティはニューヨークの魅力のひとつでしょう。ニューヨークは多人種の街であると聞いてはいましたが、実際に住んでみると、それは思っていた以上でした。街中では、英語だけでなく、スペイン語やイタリア語、中国語、韓国語、日本語などさまざまな言語が飛び交っています。

2020年のニューヨーク市の調査によると、人種の比率は白人30.9%、ヒスパニック系28.3%、黒人20.2%、アジア系15.6%となっています。さまざまな文化的背景を持った人たちがいるというのは、やはり興味深いところです。

地下鉄車内にあるイスラム教徒向けのマッチングアプリ広告【写真:ユキ】

「1 million Musulims in NYC and you’re still single?」「ニューヨークには100万人のイスラム教徒がいるのに、まだ独り身なの?」というキャッチコピーを見かけることも。イスラム教徒をターゲットにした、muzzというマッチングアプリの広告です。

こうしたターゲティング広告は、宗教だけではありません。同じくマッチングアプリのTinderの広告には、男女のカップルだけでなく、男性同士のカップルをイメージしたイラストが掲載されています。こうした広告も、日本ではあまり見られないのではないでしょうか。

自分の知人にも、片方の車椅子を押して歩く仲の良い高齢者のゲイカップルや、同性同士で子どもを育てるカップルがいます。こうした環境は、これまで当たり前だと思っていたことにいろいろな気づきを与えてくれます。

こちらでは、公園や駅、電車内でも、抱き合ったりキスをしたりしているカップルを見かけるのですが、男女よりゲイカップルのほうがよく見かける気がします。男女だから、同性同士だからに限らず、公共の場であまりどうかなと思ってしまうのは、私が古い価値観に縛られているからかもしれませんが。

人種のるつぼではなく、人種のモザイク

ニューヨークが多人種からなるのをたとえるときに、メルティング・ポット(Melting Pot)という表現がよく使われます。それぞれの文化が溶け合い、そこから新たな価値観が生まれてくるといったイメージで、そこには肯定的な意味合いも含まれているでしょう。

その一方で、「人種のモザイク」という言い方もされます。さまざまな人種や多様な価値観が共存するが、本質的なところでは決して交わることがないといったニュアンスです。

どちらを強く感じるかといえば、そのときどきによるでしょう。

ニューヨーク市内に張り出されたハマスによって、誘拐された人のポスター【写真:ユキ】

2023年の10月に、イスラム組織であるハマスがイスラエルを襲撃。ハマスによって誘拐された人の写真を掲載したポスターが、ニューヨークの街の至るところに貼られていました。

このポスターは、イスラエルの芸術家によるものですが、一方で、かえって戦争を誘発するといった批判があったり、ポスターをはがした人が反イスラエルだと非難されたりと物議を醸していました。

ワシントンスクエアでの反イスラエル集会【写真:ユキ】

イスラエルによるガザ攻撃に対する反発が強まると、親イスラエル、親パレスチナの双方によるデモが。また、日本でも報道されているように全米各地の大学で学生運動があり、その様子を見かけました。

また、6月2日には、毎年行われているイスラエル文化を祝うパレードがあったのですが、多くの警察官による厳戒態勢のなかで行われました。

あらゆる人種、あらゆる価値観の人が混在し、何が正しく、何が間違っているのかは人それぞれ。やはり言葉や文化の壁を乗り越えるのは、そう簡単ではないでしょう。

日本は比較的、同質性が強い国だといわれています。それが時として、多様性を受け入れないとして、非難されることがあります。しかし、それは果たして非難されることなのでしょうか。

日本人の秩序正しさや、治安の良さなどといった美点も、そこに起因していることがあるかと思います。同質性が強いということ自体も、多様性のひとつ。そういった考え方もあるでしょう。

ユキ(ゆき)
都内の出版社で編集者として働いていたが、2022年に妻の海外赴任に帯同し、渡米。駐在員の夫、「駐夫」となる。現在はニューヨークに在住し、編集者、学生、主夫と三足のわらじを履いた生活を送っている。お酒をこよなく愛しており、バーめぐりが趣味。目下の悩みは、良いサウナが見つからないこと。マンハッタン中を探してみたものの、日本の水準を満たすところがなく、一時帰国の際にサウナへ行くのを楽しみにしている。

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