悲惨な結末にぼうぜん…少年漫画「ピンチに間に合わず」苦悩したヒーローたち

キャラクタービジュアル (C) 和月伸宏/集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会

少年漫画において、誰かのピンチにかっこよく駆けつけるのはヒーローの条件のひとつと言える。しかし中には、『北斗の拳』の主人公・ケンシロウのように、あと一歩のところで毎回間に合わない者も存在する。こうしたエピソードは結果的にヒーローが成長するきっかけにもなるが、読者としては「あの時、間に合っていれば」と思わずにはいられないだろう。

今回はそんな“ピンチに間に合わず苦悩を見せたキャラたち”を紹介していこう。

■ 『北斗の拳』いつも間に合わないケンシロウ

まずは、“間に合わない”ことが多い主人公として知られている『北斗の拳』のケンシロウについて紹介しよう。中でも特にファンの間で語り継がれているのが、「ミスミのじいさん」のエピソードだ。

ケンシロウはあるとき、スペード一味に襲われている老人・ミスミのじいさんを助ける。彼は自分の村では、食糧問題のために争いが絶えないことをケンシロウに明かした。そのため米の種モミを持ち帰るのだと話す彼を、ケンシロウは村まで送り届けて旅に戻る。

しかしその後、ケンシロウが立ち去ってすぐに村がスペード一味に襲われてしまう。ケンシロウは道中でスペード一味とすれ違ったため急いで引き返すも、そのときにはすでに多くの村人が命を奪われていた。そしてミスミのじいさんは、ケンシロウの目の前で胸を貫かれて死亡してしまうのだった。

結果としてミスミのじいさんはケンシロウに種モミを託して死亡してしまい、ケンシロウがその想いを託されることとなった。スペード一味は車、ケンシロウは徒歩というスピードの差が、凄惨な結果を生んでしまったエピソードだ。この展開は『北斗の拳』ではある種お決まりの展開で、ケンシロウの徒歩という移動手段が毎回ネックになっていることでも知られている。

■『ONE PIECE』ゾロとサンジ、ルフィの処刑に間に合わず

全世界累計発行部数5億部という前人未到の記録を持っている『ONE PIECE』。本作のストーリーの序盤では、主要キャラのゾロとサンジが主人公・ルフィのピンチに間に合わなかったエピソードがある。

「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」が眠るという海「偉大なる航路(グランドライン)」への突入に備え、物資の補充をすることにした麦わらの一味。彼らが立ち寄ったローグタウンは、海賊王ゴールド・ロジャーが生まれ、処刑された町だった。

ルフィは単独でロジャーが処刑された処刑台を見に行ったところ、因縁がある海賊バギーの一味に襲われる。そのままなすすべなく捕まり、処刑台で“公開処刑”されることになってしまった。

ゾロとサンジはルフィを救出するために急ぐも、行く手をバギーや彼と手を組んだアルビダの手下たちに遮られてしまう。

圧倒的な力を持つゾロとサンジだが、このときばかりはルフィの処刑に間に合わない。その目の前でルフィの首にバギーの刀が振り下ろされ、ルフィは死を覚悟した。そして、仲間の名前を呼び、「わりい おれ死んだ」と笑顔でメッセージを伝えるのだった。その表情はかつてのゴールド・ロジャーを思わせるものであり、ルフィとロジャーが重なる名シーンになっている。

このルフィの処刑シーンは、長きにわたる連載の中でも麦わらの一味にとっては最大級のピンチと言っても過言ではないシーンだ。

結果的には、雷がバギーの刀に直撃し、処刑台ごと焼き尽くすことに。ルフィはゴム人間のためノーダメージで生き残るという結末だが、彼があきらめるほどの大ピンチを招いたエピソードは今でも語り継がれている。

ゾロとサンジは麦わらの一味の中でも、特に高い戦闘力を持つ二人。そんな二人がルフィを処刑される寸前にまで追いやってしまうというのは、なかなかに珍しい展開となっている。

■『るろ剣』緋村剣心、薫の死を目の当たりにする

実写映画がメガヒットを記録し、新作アニメも大ヒットした『るろうに剣心 ー明治剣客浪漫譚ー』は、幕末に活躍した人斬りが明治の世で不殺を誓い流浪人として活躍する名作漫画だ。この作品にも、決定的に間に合わなかったエピソードがある。それは剣心の過去の因縁を描いた『人誅編』でのことだ。

このエピソードでは剣心の妻だった雪代巴の弟・縁が、明治の世になって復讐にやってくる。縁は剣心のせいで姉の巴が死亡したと誤解していて、剣心に恨みのある者を集めて、神谷道場を襲撃してきた。

そして、剣心と縁の戦いは激化し、剣心の奥義「天翔龍閃」が破られてしまう。しかしそれでも剣心は縁を圧倒しており、敵を徐々に追い詰めていった。しかし縁の狙いは、剣心を殺すことではなく、絶望を与える事だったのだ。

縁は剣心の隙をついて薫の前に現れ、彼女に「あんたにはここで犠牲になってもらう」と言い放つ。その後あわてて薫のもとへと急いだ剣心が目にしたのは、大刀に胸を貫かれた彼女の姿だった。

その後、薫の死によって抜け殻のようになった剣心が、絶望の中で自分を責め続ける展開は、ファンの間でも語り継がれている。結果的には薫の死体は偽装であり、彼女は縁によって連れ去られていたという真実が明かされた。メインヒロインの死という衝撃の展開は連載当時のファンからも賛否があったが、剣心が本当の意味で幕末の呪縛から解き放たれるために必要な展開となっている。

今回は、『北斗の拳』、『ONE PIECE』、『るろうに剣心』と漫画史に残る作品の中で、守るべき誰かの危機に間に合わなかったキャラを紹介してきた。

ピンチに間に合わなかったキャラは、その後大きく成長することも少なくない。ストーリーを盛り上げる上で、こうした展開は欠かせないともいえるだろう。

それぞれが苦悩を経て成長する姿も名シーンとして語り継がれているため、ぜひその後の展開にも注目してみてほしい。

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