山田新の劇的な同点ゴールをアシストしたのは、これが今季J1初出場となった宮城天だった。
「(1-1の)同点のタイミングで出たので、自分が決めてやるっていう気持ちで入りました」
下部組織出身のアタッカーは、試合後とは思えぬほどの冷静な顔つきで、ピッチに入った時の心情を明かした。土壇場での同点ゴールを導いたあの折り返しは、宮城の強い覚悟そのものだったのだ。
6月12日の天皇杯2回戦・ソニー仙台戦で公式戦復帰を果たしたとはいえ、相手はJFLチーム。J1チームを相手にするのは2022年10月ぶりのこと。昨年修行したJ2リーグ戦で言えば、昨年11月が最後で、「(試合に出ることは)楽しいと言ったらあれですけど……、やっぱり楽しい場所だなと思いました。でも、ここは何より結果を求められる世界なので」と話すように、自身について話すよりも、チームで勝利を得られなかったことに話を向けた。
新潟戦での勝ちたいという気持ちを、川崎フロンターレの選手はシュートに変えた。前節・ヴィッセル神戸戦の3本に対し、この試合でのシュート数は18本。その数を見れば前に大きく進んだように感じるが、勝負にこだわるからこそ宮城は冷静だった。シュートの精度や、その精度を上げるための打ち方について課題を挙げたのだ。
そして、「崩す場所を全員でしっかりと共通認識を持っておけば、もっと厚い攻撃だったり再現性を高くゴール前まで行けると思う」とイメージを膨らませる。「今年初出場なので、ピッチ内のことは分からない部分もありますけど」と前置きをしながらも、外で見る時間が長かったからこそ改善策にも積極的だ。
■「自分のプレーが勝敗を決するという覚悟を持ってやっている」
宮城がピッチの上で心がけたことはおそらく2つある。一つは試合を決めるために得点やアシストを決めること。そしてもう一つは、自分の強気の姿勢を周囲に伝播させることだ。
「自分としては強気でやっていて、それが周りに伝えられているかなって思ってました。今は勝ててない状況ですけど、自分も一つ一つのプレーに責任を持ってやらなきゃいけない年齢と立場ですし、自分のプレーが勝敗を決するという覚悟を持ってやっているので、それをチームに還元できれば」
そこまでを背負って、背番号24は川崎のピッチに帰ってきた。
その気持ちを持ったのは、「多分、周り(の人)は“また失点か”とか、“この時間に失点か”と思ったかもしれませんが、中のみんなは死んでなかった」と強く感じたから。そうした頼もしいチームメイトがいたからこそ、宮城はチームをさらに前に前にけん引しようとしたのだ。
そんな新生・宮城天は、「90分を通して勝ち負けと細かい部分にこだわっていければ、また勝っていけると思う。細かいところをみんなで改善しようとしているので、地道にやるしかない」と、全員で道を切り開こうとする姿を明かしたうえで、「今はそういうことをみんなでやっていく段階だと思うので、糧にしないといけない」とこの試合を位置づける。
筆者の質問一つ一つに考え、そして、丁寧に答えてくれた宮城は、最後の投げかけにこう返してくれた。
「サッカーはボールを持たないと始まらないので、取られてもみんなでもう1回取れればいい。怖がらずにチームとして戦えれば負けないので、僕は強気に行くだけですね。毎試合、毎試合」
その心強い答えに、「ありがとうございます。次も期待しています」と返すと、覚悟を背負うかのような一礼を見せて、チームバスに乗っていったのだった。
(取材・文/中地拓也)
(後編へ続く)