一駅歩くのに5時間?大自然を堪能できる「四国のみち」本格トレッキング

【拝啓、徳島より28】四国といえば弘法大師(空海)ゆかりの寺を巡る八十八ヶ所お遍路巡りが有名ですが、実はお遍路よりもさらに長い全長1500kmを超えるハイキングロードがあることをご存知ですか?四国全土を走る「四国のみち(四国自然歩道)」は、5~20kmで区切られた100を超えるルートがあり、各地域の特色ある絶景を楽しむことができるお散歩スポットです。春のある晴れた日の週末、近所をちょっと散歩する感覚で挑戦した本格トレッキング。田舎ならでの「週末散歩」をご紹介します。

さまざまな絶景が楽しめる「四国のみち(四国自然歩道)」(筆者撮影)

田舎の醍醐味は散歩!

海と山と川に囲まれた四国の右下、徳島県。県南部の小さな港町では、毎日、どこにいても自然を間近に感じられます。玄関を出たらすぐに目に入る濃い緑の山々。歩いて3分の太平洋は、夏に向けてぐんぐんその青さを増しています。

徳島の海沿いはどこを歩いても絶景!(筆者撮影)

時間や季節、天気によって変わる鮮やかな自然に感動しながら過ごす日々は、やっぱり贅沢です。時々そのありがたみを忘れがちですが、ふとした瞬間にしみじみと「最高だなぁ...!」と目の前の景色に惚れ惚れしちゃいます。

そんな田舎町の日常に欠かせないのが、お散歩。運動不足の解消はもちろんのこと、散歩をすれば誰かしら知り合いに会えるので、お互いの生存確認、近況報告の機会を自然に作ることができます。

そもそも「そこらへんの景色」が、都会から来た私にとっては、どこを切り取っても絶景に映ります。歩いているだけで、映画やアニメのワンシーンのような風景に出会えるので、移住して何年経っても、やっぱり散歩が楽しくてたまらないのです。

少し内陸に歩けば日本の原風景に出会えます(筆者撮影)

田舎では“一駅散歩”に5時間かかる

「週末、四国のみちを歩かない?」

そう誘われたのはGWを過ぎたある5月のこと。町内に住む友人から週末散歩のお誘いを受けました。

「四国のみち(四国自然歩道)」とは、四国全土に整備された全長1545.6kmのハイキングロードです。徳島県内には24のルートがあり、お寺を訪ねたり、自然を満喫したり、さまざまな楽しみ方ができます。

四国のみちには特色あるさまざまなルートがあります(筆者撮影)

新緑の季節ど真ん中の週末に、自然いっぱいの道を歩くなんて、こんな素敵な過ごし方はないですよね!

食い気味に「行きましょう!」と返事をして、土曜の早朝ハイキングが決定。田舎では「遊び=野遊び」の場合が多いので、ご近所さんにアウトドア好きが多いのもこの町の暮らしが気に入っている理由のひとつです。

今回歩くのは海沿いの森と崖の上を歩く「千羽海崖を望むみち」。全長12.2kmのコースは、ウバメガシの樹林や、崖に打ち寄せる波の音、野鳥や猿など動物の声などが楽しめます。

汽車(徳島には電車は走っていません)だとたった一駅分なのですが、田舎の一駅をあなどることなかれ。都内だと一駅歩くのにさほど時間はかかりませんが、こちらではいくつもの山を越えて約5時間の道のりです。

新緑の中を早朝トレイル

散歩のスタートは土曜の朝7時。まずは最寄り駅から汽車に乗って一駅先まで進みます。徳島県南部地域の駅は無人駅がほとんどで、自動改札は県内にひとつもありません。県庁所在地の徳島駅でさえ切符は駅員さんに手渡しです。

市内から汽車で1時間半かかるわが町では、駅に駅員さんも改札もなし。切符制度もないので、降りる際はバスのような料金箱に乗車分のお金を入れて降ります。

最初は私も驚きましたが、事前に切符を買わなくていい分、その方が楽ちん。レトロで愛着が湧く地元の風景です。

屋根も改札もないJRの駅(筆者撮影)

森を抜け、トンネルをいくつも越えて隣駅へ。朝日に照らされた車体はなんともフォトジェニックでした。清々しい森の空気を吸って、散歩のやる気もみなぎります。

朝日を受けて輝く駅のホーム(筆者撮影)

歩き始めは平坦な田園風景から。日本昔話に出てきそうな家や田畑が続きます。畑仕事をしている地元の方に挨拶をして、太陽に向かって歩くこと約10分。道の脇に「四国のみち」の小さなサインを発見しました。ここから本格的な山歩きの開始です。

「四国のみち」入り口(筆者撮影)

地面は落ち葉が敷き詰められていて、松ぼっくりもたくさん落ちていました。持って帰ったらキャンプの火おこしに役立ちそうですが、荷物が増えるので今日は我慢です。

森の中はとても涼しく、さわさわと木々が揺れる音や小川のせせらぎが最高に気持ちいい!森林浴をしている気分で、奥へ奥へと進んでいきます。

森の中の道は最高に気持ちいい!(筆者撮影)

ひたすら続く階段地獄

爽やかな森に出迎えられて、るんるんと鼻歌混じりだったのも束の間、急斜面と終わりなき階段地獄が始まりました。いくら登っても頂上が見えない階段に、足の筋肉がすぐに悲鳴をあげます。膝もガクガク。日頃の運動不足をこれでもかと感じます。

終わりの見えない登り階段(筆者撮影)

最初は「きついー」や「しんどいー」と言葉をあげていましたが、登り始めて3分で沈黙。早々に喋る元気も奪われてしまいました。生い茂る木々のおかげで太陽の熱が届かないのが救いですが、じわじわと下半身に乳酸が溜まっていくのを感じます。

登っては降りて、また登ることの繰り返し。「起伏の多い道」とは聞いていましたが、まさかこれほどとは。根性なしの私はギブアップ寸前です。

登った後に続く終わりの見えない下り階段(筆者撮影) 

ああ、つらい…。歩けども、歩けども、楽にならず。ヒーヒーと変な声を上げながら、棒のようになった足を引きずって登ります。

これは山道あるあるだと思いますが、山道やトレッキングルートの階段は一段が高すぎる。一段が膝の高さほどある階段を、「規格外やろ!」と泣き言を言いながら、一段づつゆっくり進みます。

しんどい…。もう無理かもしれん…。

心も折れかけた時、ついに平坦な場所へ到着。ひとつ深呼吸をしてからあたりを見渡すと、木々の間から真っ青な海が見えました。

同時に風がふわ~と吹いて、ほんのり潮の香り。その瞬間の達成感、開放感、爽快感、は言葉にできません。ほっとした気分でしばしフリーズ。座ることもできずに立ち尽くして、青い空と海に見入ってしまいました。

四国のみちから望む海は絶景そのもの!(筆者撮影)

うまいおにぎりを食べるために私は生きている

少しの休憩を挟んで、トレッキングは続きます。海沿いの道に出たあとも、激しいアップダウンが続きましたが、最初の衝撃と比べると段々と心身ともに負担も軽減。「慣れ」ってすごいなぁと思いながら、ガシガシ歩いていきます。

四国のみちの案内板(筆者撮影) 

太陽はすっかり上り、木漏れ日の勢いも増していきます。額には大粒の汗が流れていましたが、さらさら?と海風が吹いて、疲れとともに暑さや不快感をどこかに吹っ飛ばしてくれるようでした。

ふと崖下を見ると透き通るような海(筆者撮影)

全体の2/3まで来たところで小休止。展望小屋に腰を下ろして、コンビニで買ったおにぎりでカロリー補給です。

疲れているからか、汗をたくさんかいたからか、おにぎりの塩っけが身体に染みます。そのおいしさたるや、思わず「うまいー!」と声が漏れるほど。

こうやって美味しいご飯を食べるために私たちは生きているんだよなぁ、なんて。ちょっと大袈裟なことを思いながら、ひと口ずつ噛み締めていただきました。

展望小屋で食べるおにぎりは最高!(筆者撮影)

自然の中で遊んで、うまい飯を食べて、寝る。シンプルですが心から楽しいと思える暮らしがここにはあります。都会と田舎はどちらもいい面と悪い面がありますが、今のところは、田舎の日常が私にとっては「最高!」のようです。

これぞ、田舎町の週末の過ごし方

シンプルだけど心から楽しいと思える暮らしがあります(筆者撮影)

おにぎりで元気をチャージした後は、またもりもりと山道を歩いて、午後1時前に町に帰ってきました。疲労困憊でしたが、清々しい達成感で足取りは軽く、そのまま国道沿いの温泉へ。汗を流した後は、ご褒美のビールで乾杯です。一緒に歩いた友人とお互いを労いながら、最高の一杯をいただきました。

これこそ「The 田舎町の週末」。不便なこともたくさんありますが、この場所でしかできない遊びがたくさんあるからこそ、田舎暮らしはやめられないなぁと改めて思った週末散歩でした。(フリーライター・甲斐イアン)

■Profile

甲斐イアン
徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。

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