進化するゴルフ練習場の舞台裏3他社の「様子」を共有できる システムの重要性(前編)

前回まで2回に分けてゴルフ練習場ごとの「様子」の違いを紹介しました。他所の練習場の様子を知りたいオーナーや支配人はとても多いのですが、その一方で自分の練習場の様子は知られたくない、「敵に手の内を見せてたまるか!」という思いが強いので、他社の様子を知ることはとても難しい。これは、練習場に限った話ではありません。

しかし、自社情報を頑なに守ることは、果たして得策なのでしょうか。少子高齢化が進む中で、何もしなければゴルファーも減少します。見せてたまるか!で「既存客を奪い合う」のではなく「業界全体で新規客・再開客の開拓」をしなければ、練習場業界自体が縮小します。

ゴルフへの入り口である練習場の来客が減れば、ゴルフ業界全体の縮小につながります。ですから、練習場同士が「どんな工夫をしたらどのような成果につながったか」などの成功事例を共有しながら、業界全体を活性化しなければいけない。私はそう考えるのです。

「自分の練習場だけ儲かれば良い」という考えは、短期的には上手く行くかもしれません。生き残り競争に敗れて近隣の練習場が閉場すると、一時的にそこの顧客が回ってきて来場者は増えますが、その後「少し遠くなったし・・・」と、来場回数を減らしたり、練習をやめてしまったりするものです。自動車ディーラーやファミリーレストランが乱立している場所は、集積のメリットで全店が繁盛する。その効果を見逃すことはできません。

そこで前回は、練習場同士が情報交換をして、互いの良い取り組みを参考にするための「情報の整理と開示」の重要性を書きました。今回は一歩進めて、今後に向けた取り組みを書いてみます。

荒川ゴルフクラブの事例

分析システムは、システムを導入する練習場ごとにアカウントを用意して、自社の分析データを確認できるようにしてあります。さらに、同じような切り口で他所の練習場の様子がわかれば、参考になるだけではなく、練習場同士の交流のきっかけがつくれる。情報交換の磁場になり得るのです。

生々しい金額関連の情報は開示したくないでしょうから、「来場者数」や「打球数」などの情報に絞って他社の様子を確認できる仕組みを既に開発しています。とはいえ、いきなり実用化すると強い拒否反応を示す練習場もあると思いますので、「開示しても構わない」という練習場を徐々に増やすべく、訪問して、説明する必要がありますが、交渉の時間がなかなか取れず、この機能を公開できていないのが現状です。

そんな中、福島県いわき市の荒川ゴルフクラブ佐藤社長は「業界の役に立つならうちのデータはいくらでも使っていい」と、非常に協力的なので、今回も同社の実データを参考にしながら説明します。

まず、図1のように「参照したい練習場」を選択し、表示期間と比較対象期間を指定できます。本稿の執筆が昨年末なので、2023年のほぼ1年分を期間に指定します。

図1## 「ダッシュボードから」

図2のように、通常のダッシュボード画面から金額関連のデータを除外したグラフが表示されます。

図2

まずは「総来場者数」の様子で、大きな丸が土日祝日です。青い方が今年、オレンジが昨年です。今年の夏は異常に暑く、来場者が減った練習場が多かったのですが、その様子がわかります。

しかし、夏以外は昨年と比べてほぼ同程度で、平日はむしろ増えている。コロナ明け以降の来場者は減少傾向の練習場が多い中で、荒川ゴルフクラブの健闘ぶりがわかります。

図3では「新規来場者」を表示しています。新規来場者も夏以外は昨年同程度で健闘しています。

図3

図4は「総打球数」です。やはり夏は昨年と比べて減っていますが、それ以外は同程度でしょう。

図4## 「属性分析から」

次に属性分析から金額関連を除外したグラフです。

図5では「時間帯-曜日分析」の平均来場者数を表示しています。土日は日中の来場者が多く、平日は朝と夜が多いのがわかります。

図5

図6は「曜日ごとの平均総打球数」です。荒川ゴルフクラブでは平日と土日祝日で料金体系が異なりますので、それに応じた打球数になります。平日朝9時〜12時までの間は球数無制限の打ち放題。その後、平日16時30分までサービスタイムで、300球までお得に打てるプランがあります。

図6

土日祝日の夜には2時間300球をお得に打てるナイトサービスタイムがあり、さらに夏の早朝営業期間には早朝打ち放題があります。グラフはまさに、それを反映した感じになっています。

佐藤社長は以前から来場者分析を重視され、曜日・時間帯ごとにターゲットを決めて、各ターゲットの客層が喜ぶプランを設定しています。単なる値引きではなく、曜日・時間帯ごとの来場者属性にマッチするプラン設定で、全打席が常に稼働する状態を作り出す工夫をしているのです。次回は年代・性別等の様子について詳述します。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら

© 株式会社ゴルフ用品界社