【社説】異例の特別監察 鹿児島県警のうみを出せ

一連の不祥事で、鹿児島県警が組織の健全性を失っていることは明らかだ。県民の信頼回復は容易ではない。

県警幹部の捜査情報漏えいと事件の隠蔽(いんぺい)疑惑である。鹿児島地検は先週、国家公務員法(守秘義務)違反の罪で前生活安全部長を起訴した。

前部長は退職直後の3月、警察官によるストーカー事件の捜査経過や被害者名などが記載された書類、別の警察官のトイレ盗撮事件に関する文書などを札幌市のフリー記者に送ったとされる。

フリー記者は鹿児島県警の不正追及の記事を福岡市のインターネットメディア「ハンター」で執筆していた。

前部長は、野川明輝県警本部長が警察官の犯罪行為を隠蔽しようとしたことが許せなかったと訴える。弁護人は内部通報のようなもので、守秘義務違反には当たらないと主張している。

野川氏は記者会見で、隠蔽の指示を改めて否定した。その上で、漏らした書類に一般女性の個人情報が含まれていたことなどを理由に、不正を内部告発した公益通報ではないと説明した。

額面通りに受け取ることはできない。都道府県の警察官の犯罪捜査は本部長指揮が基本だ。野川氏が最初に盗撮事件の報告を受けてから、指揮を執るまでに約5カ月もかかっている。不自然だ。

野川氏は、自身の指示が誤って伝わったため捜査が一時中断したと説明を加えた。きめ細かい確認と指示を怠ったとして、警察庁から長官訓戒処分を受けたという。

つぎはぎのような釈明では隠蔽を打ち消す説得力を持たない。前部長の行為は、事実上の公益通報だと考える県民が少なくないのではないか。

前部長逮捕のきっかけが、報道機関への強制捜査だったことも看過できない。

県警は別の警察官による情報漏えいの関係先として、ハンターの記者宅を4月に家宅捜索した。押収したパソコンに前部長がフリー記者に郵送した文書データがあり、事件が発覚したという。

新聞労連は「記者の職業倫理として情報源の秘匿が重要視されてきた民主主義社会では許されない権力の暴走だ」として、県警と捜索を許可した裁判官への抗議声明を発表した。報道の自由、国民の知る権利を脅かす暴挙である。

再審請求などで弁護側に利用されないように、捜査書類の適宜廃棄を促す文書を作成した問題も根深い。県警は当初、内部からの疑問の声を受けて修正したとしていたが、実際は警察庁の指導で修正していた。人権意識と自浄作用の欠如は甚だしい。

警察庁はきのう鹿児島県警に対し、異例の特別監察を始めた。野川氏による隠蔽の指示の有無についても調査する必要がある。

不祥事の全容を解明し、うみを出し切らない限り県警の再生はあり得ない。警察庁も肝に銘じるべきだ。

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