【社説】慰霊の日 「沖縄の声」に耳を傾けよ

きょう23日、沖縄は「慰霊の日」を迎えた。太平洋戦争末期の沖縄戦で、旧日本軍の組織的戦闘が終わった日である。今年も糸満市摩文仁(まぶに)の平和祈念公園で、沖縄全戦没者追悼式が開かれる。

沖縄では凄惨(せいさん)な地上戦が展開され、子どもを含む多数の住民が巻き込まれた。当時の県民の4人に1人が亡くなったといわれる。多数の戦災孤児も生んだ。

沖縄を二度と戦場にしてはならない。歴史を胸に、誓いを新たにする日にしたい。

いま沖縄を含む南西諸島ではさまざまな防衛施設が整備されている。海洋進出を活発化させる中国を背景に、政府は台湾有事への備えを急ぐ。

自衛隊の駐屯地を相次いで開設し、ミサイル部隊を配備した。米軍とは施設の共同使用や、沖縄周辺での共同演習が常態化している。

防衛力強化は住民に身近な所にも及ぶ。政府は特定利用空港・港湾として、九州・沖縄を中心とした7道県の16カ所を選んだ。日頃から、戦闘機や艦船が訓練などで円滑に使えるようにするためだ。

沖縄県では、国管理の那覇空港と石垣市管理の石垣港が指定された。県管理の施設は「政府の説明が不十分」と、県が同意しなかったため見送られた。政府の進め方は一方的ではなかったか。

弾道ミサイル攻撃や上陸侵攻を想定し、沖縄県・先島諸島の5市町村でシェルターの設置計画も進む。

住民にもたらされるのは安心ばかりではない。不安や懸念も広がる。

軍事拠点化が進展すれば、戦闘に巻き込まれる危険性が高くなることを沖縄の人たちは体験で知っている。ひとたび有事になれば、軍事施設が真っ先に攻撃対象になる。

不測の事態に備えることは大事だが、政府は防衛力強化一辺倒になってはならない。不測の事態を起こさない外交が必要だ。中国との対話はもちろん、対立する米国と中国の間を取り持つ役割を発揮しなければならない。

国土面積の約0・6%しかない沖縄県に、在日米軍専用施設の約7割が集中する。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、政府は玉城(たまき)デニー知事が拒んだ軟弱地盤改良工事の設計変更承認を代執行し、1月に着手した。

沖縄県は知事と県議会が両輪となって移設に異を唱えてきた。今月の県議選で知事を支持しない勢力が過半数の議席を獲得すると、防衛省はすぐに、8月から本格工事を始めると県に通告した。

岸田文雄首相は「丁寧な説明を続けていきたい」と言っているものの、現実は力で負担を押しつけている。

79年前、旧日本軍は本土決戦に向け、沖縄を「捨て石」にした。戦後も沖縄の民意に寄り添わない政府への不信は根強い。

沖縄の声に耳を傾けることを怠ってはならない。本土に住む私たちも心がけたい。

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