夏に暑さでやられないため今すぐ始めるべきこと…東京五輪出場選手が実践

今から暑さに体を慣らし汗をしっかりかくことが大事(写真はイメージ)

総務省のデータでは、熱中症による救急搬送者は7月に急増する。最新研究を含む暑さ対策の必須知識を、立命館大学スポーツ健康科学研究科の後藤一成教授に聞いた。

一年の中で最も平均気温が高くなるのが8月だ。しかし救急搬送者数は7月の方が多い。

「7月は梅雨が明け、本格的な暑さを迎えるタイミング。暑さへの耐性がまだできておらず、暑さに体が慣れた8月より熱中症になりやすい」

こう指摘する後藤教授は、「だからこそ7月より前、まさに今の段階で暑さへの耐性をつくる『暑熱順化トレーニング』をしておくことが、非常に重要」と続ける。

後藤教授らはトレーニング科学の観点から暑さが体へ及ぼす影響を研究している。前回の東京オリンピック・パラリンピックでは、炎天下での競技に備え各国の選手が暑熱トレーニングを実施。トレーニング科学における暑熱対策の研究が一気に進んだという。

暑い中で運動すると、深部温(=体の内部の温度)が急上昇。熱を放散するため皮膚の血管が拡張し、大量に汗が出る。すると血液は濃縮して巡りが悪くなり、体の隅々から心臓へ戻る血液量が減る。心臓から1回に排出される血液量も減るので、全体的な血液量を確保するため心臓の拍動回数が増え、心拍数が上昇し、心臓への負担が増す。

■「熱中症+腸の損傷」を回避

一見関係がなさそうな腸へも、損傷を与える。

「熱放散のために血流が筋肉や皮膚へ多く流れることで、消化管の血液量が減って消化管が酸素不足となり、腸内で炎症が起こります。運動時に下痢や食欲不振が起こることはよくあるのですが、腸での血液量の不足が原因です」

運動による腸の炎症は、暑い環境ほど起こりやすい。後藤教授らの研究では、35度の環境で60分間ペダリング運動をすると、深部温(直腸温)が安静時の37度を上回る38.5度まで上昇。着衣で皮膚に風が当たらない状況では、深部温はさらに上昇した。

腸の炎症の程度は、血液中の「脂肪酸結合タンパク(I-FABP)」量でわかる。腸内にあるI-FABPが、腸の炎症によって血液中に逸脱するからだ。

60分のランニング前後の血中I-FABPを調べた研究では、運動後、I-FABPが2倍に。室温35度での運動では、深部温は38.5度を超え、I-FABP濃度も大幅に上昇した。

暑い環境下で運動をする際に体温(深部温)上昇を防ぐ、つまり熱中症対策を講じることは、腸への損傷を抑えることにもつながる。

「対策として意識すべきは、運動時の水分摂取、風通しが良く熱を逃しやすい服装、風で体外から深部温を下げる、日陰での運動。さらに暑さに対する耐性を高めることが非常に重要です」

役立つのが、冒頭で触れた暑熱順化トレーニングだ。人工気象室で40度に設定し、低~中強度の運動を40分間行った研究では、暑熱順化トレーニング開始3日目には、深部温と心拍数の上昇が抑えられ、血液中の水分量を示す血漿量の増加が確認されている。

ただ、暑さへの耐性は一度ついても、継続的に熱ストレスを付加しないと元に戻る可能性がある。本格的な暑熱トレーニングを自己流でやるのは困難。私たちが日常的に取り入れるべきは、真夏に突入する前、まさに今から、汗をしっかりかく習慣を取り入れることだ。

「湯船に肩までしっかりつかる。サウナもいい。積極的に外に出て、汗をかくのも効果的です。さらに、運動後に糖質とタンパク質を速やかに摂取すると血漿量の増加が助長され、運動前にアイスラリー(液体と細かい氷がシャーベット状に混ざった氷飲料)を摂取すると深部温を低下させるとの研究結果も報告されています」

今日から始めよう。

■重ね着で運動…立命館大学スポーツ健康科学研究科の岡本紗弥さん(大学院生)の研究では、室温10度、湿度50%の環境で、衣服内に熱をこもらせる重ね着で運動をすると、一般的な運動時の服装と比べて、運動後の主観的運動強度、主観的暑熱感が共に下がり、暑さへの耐性ができやすいとの結果が出ている。気温がそれほど高くない時なら、重ね着で散歩するなどして、暑熱順化を獲得するのも手だ。

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