長生きしたけりゃ最後は噛む力(1)歯が20本以下だと死亡率は2.7倍

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人生100年時代、最近では「平均寿命」よりも「健康寿命」に関心を持つ人が増えています。日本人の健康寿命(74.1歳)と平均寿命(84.3歳)の差はほぼ10年。この差をできるだけ縮めて、いくつになっても元気で自立した生活を送りたいというのが、多くの人の願いでしょう。

そのためには食事や運動、睡眠などに気を配るのはもちろんですが、忘れてはならないのが「口の健康」です。きちんと噛んで食べられる健康な口=健口は、健康寿命を延ばすための入り口ともいわれているのです。

口の健康状態が心や体の健康に密接に関わっていることは、以前から指摘されてきました。

よく知られているのは歯周病と糖尿病との関係です。歯周病が悪化すると血糖値が上がり、逆に良くなると血糖値も改善されるというものです。この相関関係は歯科医や糖尿病専門医がよく体験することで、日本糖尿病学会のガイドラインでも血糖値を下げるために歯周病治療が勧められています。

また、心臓病との関係では、1990年代から米国などで多くの研究報告があり、歯周病の人は心筋梗塞などの心臓病リスクが高まることが明らかにされました。日本人の調査(「MYヘルスアップ研究」東京大学など、2004年)でも同様な結果が出ていて、歯周病のある男性は、心筋梗塞が約2倍になることが報告されています。

その他にも肺炎や低体重児出産、関節リウマチ、動脈硬化、がんなどと関係があるだけでなく、寿命にも影響していることがわかってきたのです。

厚労省研究班による「口腔保健と全身的な健康状態の関係について」(2006年)では、20本歯のある人と比べ、それ以下の男性の死亡率は、なんと2.7倍。失った歯が多く、うまく噛めないと、寿命も短くなるというのです。

高齢者が寝たきりになる原因にも歯が関係しています。寝たきりになるきっかけには認知症や脳卒中、転倒・骨折などがありますが、実は歯のない人は認知症や転倒のリスクが高くなることがわかってきました。

これは愛知県の高齢者の調査(厚生労働科学研究班、2012年)によるもので、歯がほとんどなく入れ歯を入れてない人は、20本以上ある人に比べて認知症リスクが1.9倍、転倒リスクは2.5倍になるというのです。また、咀嚼(そしゃく=噛む)能力を調べたところ、あまり噛めない人は、なんでも噛める人に比べ、要介護認定リスクが1.47倍という結果も出ています。ただし、歯がなくとも入れ歯を使用していれば、リスクはそれほど高くなりません。

こういった研究からも認知症や寝たきりを予防し、健康寿命を延ばすためには、しっかり噛める健康な歯と口が重要ということがわかります。=つづく

(油井香代子/医療ジャーナリスト)

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