【コラム・天風録】心の痛み止め

 つぶらな瞳に、ピンクのほっぺ…。何かの動物なのか妖精なのか、判然としない。SNS風の短いせりふが飛び交い、しぐさは愛くるしい。日本生まれの漫画キャラクターで、とりわけ女性に人気の「ちいかわ」である▲海の向こうでも、若者たちの心をわしづかみにしている。中国初上陸だった上海の期間限定ショップで、関連グッズの売上高が3日間で1億7千万円を超えたという。さすがは白髪三千丈の国、「爆買い」も桁違いだ▲漫画は4年前から連載中といい、正式な題は「なんか小さくてかわいいやつ」。広島市中区の広島パルコ地下にも昨年秋、関連グッズ専門店が進出している▲一世を風靡(ふうび)した「たまごっち」のような癒やし系の画風が、かの地でも受けたのかと思えば違った。つらく悲しいことが絶えない世の中で、ささやかな幸せを見つける物語のとりこなのだという。若者にとって「心の痛み止め」だとの解釈も見える▲不動産不況の中国では昨今、若年失業率が上昇傾向をたどる。強権的な「ゼロコロナ」政策で不自由を強いられた心の痛みも癒えていない。待たれるのは、対症療法に過ぎない「痛み止め」より何より、根治のための政策だろう。

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