「本部長の犯罪隠蔽」告発で揺れる鹿児島県警の大暴走”警察のもみ消し実態”弁護士の告発

鹿児島県警がニュースサイト「ハンター」を家宅捜査した。2023年10月に鹿児島県警の内部文書がハンターに掲載されたことがきっかけだった。一体こんなことが許されていいのか。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

「警察を非難すると面倒に巻き込まれるゾ」という忠告

鹿児島県警の前生活安全部長・本田尚志氏が、警察官の犯罪を隠蔽(いんぺい)しようとしたとして県警本部長・野川明輝氏を告発した。生活安全部長は、地域社会の安全と安心を守るために多岐にわたる業務を管理・指導し、県警組織全体の生活安全活動を統括する重要なポジションだ。その職を担っていた人物が、最高責任者である本部長を名指しで非難するのは極めて異例な事態といえる。

筆者は、かつて、ハトをひいたタクシー運転手を東京新宿署が逮捕した事件で「そんなことをしてるほど、歌舞伎町などの治安にあたる新宿署は暇なのだろうか。ムダに使われる予算なら削るべきではないか」と述べたこともあったが、そんな発言に、私の周囲の有識者は「警察を非難すると面倒に巻き込まれるゾ」と忠告をしてくれたことがあった。

治安当局が威張り散らしているような国は、国家としての品格が一段落ちている

筆者は、命の危険もある職務に携わる警察官に心から敬意を払ってきたが、警察なら何をしてもいいということはないと思う。特に日本において、保守系の政治家や有識者たちは、警察批判に対して及び腰の面がある。周辺国を見渡して、治安当局が威張り散らしているような国は、国家としての品格が一段落ちていると感じる。

相手が警察であろうと、良いものは良い、ダメなものダメなのである。謎の正義感で不祥事を隠蔽して「秩序は保たれた」などと考える大馬鹿者が多すぎる。ゴミはゴミ箱へ、誰かが悪いことをしているなら声をあげて非難することこそが正しい秩序の在り方であろう。

さて、事件を簡単に振り返っていこう。いくつかのフェーズに分かれている。

県警がハンターを家宅捜索、パソコンを押収

1、2021年9月に起きた事件

ニュースサイト「ハンター」(https://news-hunter.org/)は、女性が鹿児島県医師会の元職員から2021年9月に性的な暴行を受けたと、2022年に報じた。

ハンターの報道(https://news-hunter.org/?p=21721)によれば、元職員は、被害女性に事件から3か月後に「自らの理性を抑えることが出来ず、衝動的な行動に至ってしまいました」「自身が犯してしまった罪について、改めてどうしても謝罪させていただきたく、お手紙を書かせていただきました」などと書かれた謝罪文を提示していたにも関わらず、翌年になって「合意に基づく性行為だった」と強制性交を否定したという。2023年12月、鹿児島地検が不起訴処分を決定し、翌2024年1月に、被害者側は不起訴処分を不服として鹿児島検察審査会に審査請求をした。

2、県警の内部文書である「告訴・告発事件処理簿一覧表」

ハンターは、上記事件を扱う中で、鹿児島県警の内部文書である「告訴・告発事件処理簿一覧表」の一部を黒塗りにしてニュースサイトに掲載し、不当捜査の証拠であると主張を展開した。ニュースサイト「AERA dot」

(https://dot.asahi.com/articles/-/225188、取材・書き手は、今西憲之氏)によれば、<県警はこのハンターの記事を見て、掲載された「一覧表」は県警が作成したものだと気づき、個人情報が漏洩したとして個人情報保護委員会に報告した。同時に、情報を漏らした「犯人捜し」を始めた>のだという。

3、県警がハンターを家宅捜索、パソコンを押収

2023年4月8日、鹿児島県警の捜査員がハンターの事務所を家宅捜索し、パソコンを押収した。鹿児島県警は押収したパソコンには「闇をあばいてください。」という書き出しの現職の警察官が犯した3件の違法行為が隠蔽されていることを示す内容の「鹿児島県警内部の不正事案を記した差出人不明の文書データ」(ジャーナリスト・小笠原淳氏へ郵送されてきたものを、寄稿先であるハンターがデータとして共有していた)が入っていた。

ハンター(https://news-hunter.org/?p=22617)によれば、<3件の告発事案の“裏付け”がいずれも取れない状態だったが、ハンターへの家宅捜索の際に偶然内部通報の内容を知った県警は、5月30日に告発文に記載されていたうちの1件を立件。それが、現職警官による盗撮事件だった>という。

「隠蔽しようとしたことが、どうしても許せなかった」

4、鹿児島県警の前生活安全部長・本田尚志氏が逮捕

「小笠原淳氏に、捜査情報を記した文書を封入した郵便物を送ったこと」を逮捕容疑として、県警の本田尚志前生活安全部長が、国家公務員法違反で逮捕(5月31日)された。本田氏は「私がこのような行動をしたのは、鹿児島県警職員が行った犯罪行為を、野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが、どうしても許せなかったから」(鹿児島簡裁での意見陳述、6月5日)と内部告発の理由を明かしている。この本田氏による意見陳述と野川県警本部長の反応を、朝日新聞はこう報道している。

<本田容疑者は先週の勾留理由開示手続きで事実を認め、自らの行為をわびた上で、野川明輝県警本部長を名指しして「本部長が隠蔽しようとしたことがあり、どうしても許せなかった」と語った。/枕崎署員による盗撮容疑事件に関し、本部長が「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と言ったとし、「不祥事が相次いでいた時期だったため、新たな不祥事を恐れたのだと思う」と述べた。/野川本部長は、報道陣に対し、各事件では容疑者の逮捕など必要な対応がとられていたと反論。隠蔽の意図を否定し、「捜査が終結した際には説明したい」と語った。捜査中とはいえ、発言は短時間かつ一方的で、およそ説明したとは言えないものだ>(朝日新聞デジタル・6月11日社説、https://digital.asahi.com/articles/DA3S15955413.html)

弁護士「警察官の都合の悪い情報渡しても、検察に報告されなかった」

これら一連の出来事を振り返ると、メディアへの内部告発が情報漏洩とされたこと、警察による隠蔽を疑われている事案でその捜査を当の警察が行なっていることなど、およそまともな正義の実現が期待できない事案が大量に発生中だ。

こうした警察のあり方をどう考えるのか。地元の刑事事件なども手掛ける城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士に見解を聞いた。

「行政府優位の日本では、役所の不祥事は発覚しづらく、特に検察や警察においてその傾向は顕著である。私自身、警察官に手渡したメモ(警察にとって都合が悪い内容を含む)が、警察の上位組織である検察に全く報告されていないケースを何度か経験している。このため、メモを手渡す前にコンビニでコピーを取ったり、携帯電話で原本を撮影するように心がけている。今回の不祥事はたまたま発覚したに過ぎないと感じており、証拠の紛失や被害者の個人情報漏洩といったレベルの不祥事は、実際にはかなりの頻度で起きていると思われます」

国鉄改革、郵政改革レベルの警察改革は必要なのか

さらに、警察組織特有の問題について、次のとおり語る。

「ほとんどの警察官は都道府県警察で採用され、国家採用のキャリアとは別の世界です。30歳過ぎの中途入社組はほとんどおらず、警察官の大半は定年までの40年間を狭い男社会で過ごす。このような『職人社会』では、新卒一括採用をベースとする日本の労働市場の中でも特に特殊性が際立っており、昭和時代のパワハラ気質が色濃く残っています。本来、警察組織の改善については弁護士会やマスコミがもっと役立つべきですが、『国選弁護人の報酬が安すぎる』と不満を抱く弁護士や、『記者クラブのしがらみで身動きが取れない』と嘆く新聞・テレビ関係者が多く、なかなか前に進まないのが実情です」

何か良い特効薬はないのだろうか。野澤隆弁護士は、最後にこう提言した。

「現時点で考えられる次善策としては、小さすぎる採用規模・人事異動レベルをもう少し上げる、具体的には47都道府県ではなく、8つの高等裁判所・高等検察庁レベルにすることです。7万人を超える警察官を抱える警視庁(東京都)は別格としても、2000から3000人程度しか警察官がいない県警察が大半を占める現状は、少子高齢化が進む日本で持続可能性がないと言わざるを得ません。警察組織は、30万人近い大きさと強大な権限の割には天下り先の質・量ともにそれほどではなく、かつての国鉄改革・郵政改革などと比べると、時の権力者がちょっと力を入れれば意外に早く改革できそうな気がします」

筆者は国会議員の秘書をしていたこともあるが、不祥事を墓場まで持っていく業界美学にはある種の違和感を抱いていた。すぐにはムリでも悪事はいつか暴かれるべきである。一層の再発防止策の徹底が急務だ。

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