「四季の美」守り続ける 会津東山温泉の向瀧庭園、国登録記念物に

写真上=玄関の屋根の上から撮影した庭園の夜桜(向瀧提供)、写真下=「これからも日本の四季と庭園の景観を守っていきたい」と話す平田さん

 「毎日手を抜かずに繰り返し手入れをしてきた。それが庭園の景観を守ることにつながった」。国の登録記念物に、福島県内の名勝地で初めて登録される見通しとなった会津若松市の「会津東山温泉向瀧庭園」。国内外の宿泊客を魅了する庭園を守ってきた向瀧6代目社長の平田裕一さん(63)は社員の仕事ぶりに感謝しながら、「これからも日本の四季と庭園の景観を守っていきたい」と決意を新たにした。

 向瀧庭園は、春はサクラが咲き、夏はホタルが飛び交う。秋は紅葉し、冬は雪の上に「雪見ろうそく」がともる。四季折々に違った顔を見せ、多くの人の心を引き付けてきた。現在は宿泊者のみに開放され、園内を散策することができるようになっている。

 旅館向瀧の前身は、会津藩政時代に「きつね湯」と呼ばれたと伝わる保養所だ。廃藩置県とともに1873年に平田家が引き継ぎ、旅館を開業。約150年にわたり、年間を通じて全社員が草刈りや落ち葉掃きをしたり、庭師が木を剪定(せんてい)したりして、妥協のない仕事で景観を守ってきた。

 手入れの行き届いた庭には「日本の四季の美しさを庭園に凝縮したい」という平田さんらの思いが詰まっている。高低差12メートル、奥行き40メートルの傾斜地にあり、山と川に挟まれた地形を生かした立体的な構造だ。明治時代から昭和時代初期にかけて整備され、客室棟で三方を「コ」の字状に取り囲むように斜面と園池が配置されている。

 平田さんは庭園の美しさを広く伝え、「心安らぐ空間を共有したい」との思いから、インターネットや交流サイト(SNS)に庭園写真を掲載したり、定点ライブカメラで配信したりして、魅力発信にも力を入れてきた。その取り組みは実を結び、今では庭園の景色を楽しむため、海外から足を運ぶ宿泊客も多いという。

 旅館の建物は1996年に国登録有形文化財に登録されており、今回の答申でさらに重みが加わった。

 平田さんは四季折々の美しさが高く評価された庭園を見ながら、「お客さまには水や風の音など自然の状態を感じてほしい」と願った。

 市長「活性化に期待」

 今回の答申を受け、室井照平会津若松市長は「登録記念物の登録は大変喜ばしい」とした上で「今後も地域の財産として地域の活性化、さらには本市の産業や観光の振興にもつながっていくことを期待している」とコメントした。

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