閉じ込められた人々を何者かが監視し続ける恐怖 監視者は一体何者? 『ザ・ウォッチャーズ』

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飯塚克味のホラー道 第81回『ザ・ウォッチャーズ』

このコーナーで何度となく取り上げているM・ナイト・シャマラン監督だが、とうとう娘のイシャナ・ナイト・シャマランを監督デビューさせてしまった。もちろん何も知らない人ではない、イシャナはこれまでR&B歌手である姉のMVを監督し、父親の『オールド』(2021)『ノック 終末の訪問者』(2023)でセカンドユニットの監督を、TVシリーズ『サーヴァント ターナー家の子守』(2019~)では10の内、6つのエピソードの監督をしている。

そんな彼女が映画化したのは、自身が惚れ込んだというA・M・シャインの原作。親の死についてトラウマを抱えつつ、ペットショップで働く若い女性ミナが、オウムを配達するうちに、いつの間にかに山奥に迷い込む。そこで3人の人物に出会うが、彼らが暮らすその家は、大きな窓がある巨大なワンルームで、その窓からは何者かが一晩中、監視し続けていた。彼らとはいったい何者なのか?何のために監視を続けているのか?

主演のミナ役には子役時代から活躍を続けるダコタ・ファニング。『I am Sam アイ・アム・サム』(2001)や『宇宙戦争』(2005)など子役時代の印象が強いが、大人になってからも『トワイライト』シリーズ(2008~2012)や『イコライザー THE FINAL』(2023)などに出演し、今回、久々の主役を演じている。一緒に閉じ込められる共演者を演じるのは『バーバリアン』(2022)のジョージナ・キャンベル、ドラマ『アウトランダー』(2014~)のオリバー・フィネガン。そして老婆マデリンを演じたアイルランド出身のオルウェン・フエレが存在感を放っている。

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実は今回、親の七光りで監督デビューか、とかなり斜に構えていたのだが、期待以上の出来に驚かされた。後半は、閉鎖空間からいかに脱出するかという流れになるのだが、ダレることもなく、謎の解き明かしも映画として楽しむには十分納得のいく作りになっていたのだ。撮影や音響の使い方も上手く、高精細で捉えられた森の奥深さは何が潜んでいるか分からない不気味さに満ちているし、大勢の鳥が上空をかすめる音響も良かった。またマジックミラーの向こう側にいる謎の存在(ウォッチャーズ)が、壁をドンドン叩く音も、迫力満点。筆者が観たのはシネコンで一番広いスクリーンだったが、本作の場合、登場人物たちの気持ちに寄り添えるよう、中サイズ以下のスクリーンの方が、より映画的な興奮を体験できるような気もした。

断っておくが、本作は観た人の人生を変えるような大げさなものではなく、見終わって「ああ~、面白かった。帰りは何食べようかな」と簡単に切り替えができるような娯楽映画である。だがそんな普通に楽しめる映画が、最近どんどん少なくなってきてはいないか?この手のエンタメ作品が次々製作され、上映されることこそが、映画館には必要だと思えてならない。

日本に先だって公開された北米では、製作費3000万ドル(推定)に対し、オープニング週末700万ドル、トータル1670万ドルの結果に終わり、かなり厳しい船出となってしまった。まだまだ公開されていない国もあるだろうから、最終的にどうなるか分からないが、父親のM・ナイト・シャマラン監督もヒット作が出せず、低予算映画で復活してきたキャリアがあるので、才能を開花するチャンスはまだまだあるだろう。

本作を観れば、ジャンル映画に思いの強いイシャナの次回作を観てみたいという観客は決して少なくないはずだ。いつか逆転満塁ホームランを放てる逸材だと思うので、是非、本作を観て、その後の活躍にも注視してもらいたい。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ザ・ウォッチャーズ
2024年6月21日(金)より公開中
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