見知らぬ土地を相続? 長崎の男性が選んだ放棄の手続き…思わぬ負担も<しまい方のかたち・3>

西田さんの叔母が残した手書きの遺言書

 「財産をおいとめい2人の計3人にそれぞれ3分の1の割合で相続させる」。今年3月に亡くなった叔母のかばんから実印が押された手書きの遺言書が出てきた。「聞いてないよ」。長崎県西彼長与町の西田司さん(78)=仮名=は困惑した。
 叔母は夫に先立たれ、佐世保市の自宅で1人暮らしをしていたが9年前に同市内の高齢者施設に入所。子どもはおらず、親やきょうだいも亡くなり、家庭の事情で住民票を長与町に移した。亡くなった際、預貯金のほか、松浦市内に田畑や山林など計約1万3千平方メートルの土地を所有していた。
 西田さんにとっては全く知らない土地。親類によると、引き取り手を探したが見つからなかったらしい。「自分たちの手に負えない」。方策を調べる中で、家庭裁判所で預貯金や不動産などの相続を放棄する手続きがあることを知り、妹2人と進めることを決めた。
 遺言書を手に向かったのは、面識があった県司法書士会副会長の山下隆義さん(46)の事務所。そこで山下さんから「三つのステップを踏まないといけない」と説明を受けた。
 西田さんの叔母のように手書き、押印した「自筆証書遺言書」は、民法の要件に合っているか法務局が確認した上で保管する制度がある。改ざんや、方式の不備で無効になるのを防ぐためだが、叔母は制度を利用しなかったため、家裁が内容を確認する「検認」の手続きが必要になるという。
 西田さんは「検認」の手続きと、二つ目のステップとなる遺言書に基づく財産取得権を放棄する手続きを、5月下旬に長崎家裁に申し立てた。現在手続き中だが、山下さんは「放棄したからと言って、終わりではない」と注意を促す。
 三つ目のステップとして家裁に「相続財産清算人」選任の申し立てが必要となる。西田さんは不動産だけでなく、預金を保管しているため、放棄しても保存義務が残るためだ。
 選任された弁護士や司法書士が家裁と協力しながら財産を処分し、最終的に残ったものは国庫に帰属させる。報酬を含め必要な経費に不足が生じる可能性がある場合、西田さんは家裁が定めた額を納付しなければならない。
 「書面作成や戸籍集めなど、とても1人ではできなかった」と話す西田さんだが、思いがけない負担を余儀なくされた。
 山下さんは「西田さんの承諾を得ずに遺言書を書いたことが今回の結果を招いた。遺言書を書く際は専門家に一度相談し、正しい知識を得ることが皆さんのためになる」と強調する。

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