![](https://nordot-res.cloudinary.com/c_limit,w_800,f_auto,q_auto:eco/ch/images/1178167766608184298/origin_1.jpg)
税務調査ではさまざまな質問をされます。何気ない雑談のつもりで気軽に答えると、後々後悔するケースも……。本記事では、占い師のもとへやってきた税務調査の実例とともに、税務調査官による質問の真意について鄭英哲税理士が解説します。
キャリア20年超、人気占い師のもとへやってきた税務調査
筆者はもともと消費者金融に勤めており、現在は公認会計士・税理士・証券アナリスト・宅建士・ファイナンシャルプランナーとして活動しています。ここでは、筆者がこれまでに法人・個人併せて、税理士として20回ほど担当した税務調査の経験のなかで、特に印象深かった実例を紹介していきます。
今回取り上げるのは筆者の顧客のなかでも珍しい職種の方に税務調査が入った一件です。その方は、年間の売上が約1,200万円、キャリア20年以上の50代、人気占い師でした。
彼女は、個人事業主として占いをしています。個人事業主といっても、輸入代行業や、行政書士といった本当に代表者1人で運営する事業体もあれば、飲食店など、人を大勢採用してほとんど会社と変わらない規模で運営している事業体もあります。個人経営の飲食業は割と税務調査は入りやすいですが、今回は代表者1人の個人事業主に税務調査が入ったという珍しいパターンになります。
今回のお話で注目する点は、占い師がどうこうの話でありません。むしろ、税務調査の初日に、代表者、税理士、税務署職員の三者が初めて集まった際、どんなことが行われるのか、についてお話したいと思います。いつか税務調査を受ける社長さんはぜひご一読ください。
代表者には帰ってもらう
税務調査は、朝10時~16時に3日間にわたって行われることが多いです。ケースによっては、もっと短かったり長かったりもします。
そのあいだ、顧問税理士が常駐するということはご想像どおりかと思います。では、代表者である社長もそのあいだずっと、常駐しないといけないでしょうか。
答えは、NOです。そして、最初の税務署職員との名刺交換、30分程度のヒアリングが終了次第、筆者はあえて代表者には帰ってもらっています。そして、代表者にしか聞けない話は、筆者が預かったあとに代表者本人から回答をもらいます。
代表者を立ち会わせない理由
筆者があえて代表者に帰ってもらっている理由は以下のとおりです。
・社長がいても、やることがないため
・税務署職員の世間話を遮るため
特に後者の「税務署職員の世間話を遮るため」が重要です。先ほどお話しした、30分程度のヒアリングは何気なく聞かれますが、普通に裏取りされています。聞かれる内容は大きくわけて以下8つの項目でしょう。
1.名前
2.生年月日
3.家族構成
4.出身地
5.出身学校
6.職歴
7.この会社を始めた理由
8.1~7にプラスした世間話
1~7は、事実についての質問ですので、ウソをついたり、取り繕ったりする必要はないでしょう。問題は、「8」です。
今回の占い師のケースでは、占いで人気のエリア、鑑定料の相場、お客さんの性別や年代、相談内容などをあの手この手で聞かれました。経営者である代表者から直接聞く業界や身の上話は、今後の税務調査を行ううえでちょっとした整合性を取られるわけです。
たとえば、池袋の占いの鑑定料の相場は1時間1万円といっていたのに、ここの鑑定料の単価は5,000円。おかしいな、といったようなイメージです。そのため、最初の30分では特に「8」の世間話を重点的にされます。
もし代表者が、社内にずっといて税務署職員が気になったことをずっと聞かれたらどうでしょう。会社にとって不利な証言をしてしまうこともあります。それにもかかわらず、代表者の多くは「税務署上等。聞きたいことがあるならなんでも教えてやる!」という心構えで、ペラペラ話してしまう人も実際多いものです。
そのため、最初の30分のヒアリングも、あまりに根掘り葉掘り聞いてくるようでしたら、筆者が「そろそろいい加減にしてください」と遮ったり、「社長、そろそろ出かける時間じゃないですか」と外出を暗に促すこともあります。とにかく、税務調査は代表者のちょっとした発言も帳簿との整合性を取ろうとしていると思ってください。
余談ですが、昔担当した税務調査の話です。ある女性が、日本にある「日本円」を韓国の銀行に送金し「ウォン」に替えました。その後、日本の銀行に送金し再び「日本円」に交換したところ、200万円以上の為替差益が発生しました。それにもかかわらず確定申告をしていなかったという案件でした。
こんな細かいことでも税務調査が入るのだと驚きましたが、税務調査最初のヒアリングはやはり行われました。
・韓国は何回行ったことがあるか
・現金はどれくらい持っていくのか
・韓国に行く理由
・直近で韓国に行ったのはいつだったか
・パスポートの出国記録を見せてはくれないか
など。為替差益がほかにもないかどうかを遠回しに聞き出したいのはわかりましたが、警察の取り調べみたいになってきたので、さすがに「もうそろそろいいでしょう」と遮ったことがありました。すると、「最後にもう1つだけいいですか」と古畑任三郎のようにしつこくなったので、強制的に終了させました。
聞かれたことすべてに答える必要はない
税務署職員に聞かれたことをなんでも話す義務はないということは知っておいてください。あくまで調査の対象は、確定申告や決算書についてだということです。というわけで、税務署職員は無駄な話をしているようで、それも税務調査に一環なのだと思ってください。
しかし、全部を答える必要もないということは知っておいてください。とにかく、会計についてほとんど税理士に任せている代表者がいても意味がないし、余計なことを話さないように、社長さんにはヒアリングが終わり次第帰ってもらうことにしています。
占い師の税務調査は、特に大きな追徴もなく終わりましたが、完全1人の個人事業主にも税務調査は入るのだなと思わせられました。
税務調査のケーススタディとは少々離れた内容にはなりましたが、普遍的な内容ではあるので、ぜひご参考になさってください。
鄭英哲
株式会社アートリエールコンサルティング
税理士/公認会計士/証券アナリスト/CFP/宅地建物取引士