イタリアが魅せた本気のカテナチオ。クロアチアが支配先制も【ユーロ2024】

ニコロ・バレッラ(左)マテオ・コバチッチ(右)写真:Getty Images

UEFA欧州選手権(ユーロ2024)では、日本時間6月25日にドイツ、ライプツィヒのツェントラールシュタディオンでグループBの最終戦が行われ、イタリア代表とクロアチア代表が対戦した。

結果は1-1で、勝点4としたイタリアがグループ2位となり、自力でノックアウトステージ進出を決めた。クロアチアは勝点2で3位となり、他グループの結果を待つことになった。


ニコロ・バレッラ 写真:Getty Images

立ち上がりから守備を固めるイタリア

グループ2位をかけた直接対決は、まずはクロアチアがチャンスを迎える。5分にMFルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)のパスを受けたMFルカ・スチッチ(ザルツブルク)がペナルティエリアの外から右足でシュート。GKが弾いてコーナーキック(CK)に逃れた。

次第にイタリアのペースになり、イタリアが有効な攻撃を仕掛け始める。11分に左サイドのDFフェデリコ・ディマルコ(インテル)からのアーリークロスに、MFロレンツォ・ペッレグリーニ(ローマ)がヘディング。ゴール左に外れる。

19分には、中盤でクロアチア選手が相手の首に腕をかけて阻止。ラグビーでいうところのハイタックルであり、ファウルの判定となった。珍しいプレーだが、それだけクロアチアも必死だ。

21分にはイタリア左サイドのDFリッカルド・カラフィオーリ(ボローニャ)のクロスにFWマテオ・レテギ(ジェノア)がヘディングもゴールならず。直後にもレテギがシュートもCKに。レテギは26分にもゴール前に走り込み左足でシュートしたがクロアチアが阻止した。

27分には、インテルで培われたコンビネーションでイタリアにビッグチャンスが到来。MFニコロ・バレッラ(インテル)がフリーで上げた右クロスを、ゴール目前で身長190cmのDFアレッサンドロ・バストーニ(インテル)がヘディングもGKがクロスバーの上に逃れる。

逆にクロアチアは、31分にモドリッチが右クロスもイタリアGKが身を投げだして阻止。同分、再び回ってきたボールをモドリッチがシュートするもブロックされる。

36分イタリアは、ペッレグリーニがペナルティエリアの外から左足で狙うもゴールはならず。0-0で前半を終えた。


ルカ・モドリッチ 写真:Getty Images

クロアチアがまさかの先制

発煙筒がたかれ、ピッチまで漂う白い煙が妙に不気味だ。その予感が現実のものとなり、後半は風雲急を告げる。

52分、ペナルティエリア内でクロアチアのFWアンドレイ・クラマリッチ(ホッフェンハイム)が右足シュートを放つと、MFダヴィデ・フラッテージ(インテル)の伸ばした左手に当たる。クロアチア選手に取り囲まれた主審はVARでPKの判定に。

そのPKは54分、モドリッチが右足で枠の右に置きにいくように蹴ったボールをGKジャンルイジ・ドンナルンマ(PSG)が手を伸ばしセーブし、スタジアムがどよめいた。

クロアチアの波状攻撃が続き、右サイドからのボールにFWアンテ・ブディミル(オサスナ)がシュートもGKが再びセーブ。そのセカンドボールに反応したモドリッチが反転して倒れながら左足で詰めて得点。PKを外した直後のプレーで名誉挽回した。

マリン・ポングラチッチ 写真:Getty Images

クロアチアは守備が崩壊寸前に

試合はクロアチアがリードするまさかの展開。追う立場から追われる立場となり、今度はクロアチアが守りで受け止めて、イタリアがボールをキープする。

しかし、イタリアの猛攻に守備がほつれはじめ、守備が崩壊寸前のところで選手交代をしてどうにか修繕を行い、その場しのぎが続くクロアチア。一時の危機的な状況を脱しても、苦しそうなのはリードしているクロアチアの方だ。

78分には、たまらずファウルで止めたDFマリン・ポングラチッチ(レッチェ)に警告。クロアチアの余裕のなさの表れだ。

87分にはイタリアのFWフェデリコ・キエーザ(ユベントス)が右サイドから低いクロスをGKとディフェンスラインの間に入れ、触れば得点というところに途中出場のダヴィデ・フラッテージ(インテル)とFWジャンルカ・スカマッカ(アタランタ)が滑り込むが無常にも触ることができず。

提示されたアディショナルタイムは8分。イタリアは、自ら布陣を分解寸前にして攻守のバランスをいびつにする危ない賭けに出る。その隙を突いて、クロアチアが安全地帯にボールを運び、うまく時間を使う。ここはさすがにクロアチアも試合巧者だ。ベンチに退いて戦況を見守るモドリッチは、立ち上がって身体からユニフォームを剥がすと歯で引き裂かんばかりだ。

そして90+8分、イタリアのラストチャンスかというシーンが訪れた。DFカラフィオーリがピッチ中央を突進してドリブル突破すると左サイドに散らす。そのボールに途中出場のMFマッティア・ザッカーニ(ラツィオ)がダイレクトで右足を振ると、虹のように鮮やかな弧を描いたボールは白い枠の中に吸い込まれていく。あまりに劇的で、まるでスローモーションのように映った。


リッカルド・カラフィオーリ 写真:Getty Images

イタリアDFカラフィオーリが火事場の馬鹿力を放出

なぜディフェンダーであるカラフィオーリが、体力を消耗した終盤にあれだけエネルギッシュに前方に攻撃参加することができたのだろうか。

イタリアの同点弾をお膳立てをしたカラフィオーリは、21日のスペイン戦(0-1)でオウンゴールを喫した選手である。その敗れた試合以来、挽回をしたいという一心だったに違いない。

アシストのシーン以外にも、気迫のこもったプレーを多く披露した。「転んでも、ただでは起きない」。その心意気をひしひしと感じた。


イタリア代表 写真:Getty Images

イタリアが魅せた本気のカテナチオ

前半終了時点のボールポゼッションは、クロアチアの61%に対してイタリアが39%。攻撃回数はクロアチアの15回に対してイタリア13回。シュート本数はクロアチアの2本に対してイタリアが6本だった。

実力が拮抗したチーム同士だが、前半の戦いはイタリアのペースだった。スコアは0-0でクロアチアがボールを支配したのに、なぜそのように言い切ることができるのか、と思うかもしれない。

この試合開始時点でクロアチアが勝点1に対してイタリアは3。同時刻に行われる裏の試合では実力で勝るスペインがアルバニアに勝つ算段がつく。

つまり、イタリアは引き分け以上でグループ2位が見えてくるのだ。一方のクロアチアは、そもそもこの試合で勝たないとイタリアを上回ることができない。

ここで繰り出したのが先祖伝来の「カテナチオ(かんぬき/堅守速攻サッカーの戦術)」だ。昨今のイタリア代表は、必ずしも守備を固めるだけではなく、多彩な組み立てと攻撃を行う。しかし、ここぞという時にアズーリ(イタリア代表)のDNAに刻まれる堅守の配列が蘇ったのである。

そして、クロアチアの動きを封殺すると、逆に有効なカウンター攻撃で深くえぐるように相手陣内に侵入し得点機をつくった。

勝たなければならないクロアチアは、ボールは持てど、有効打が出せずに試合を折り返した。イタリアの思惑通りの前半だった。

後半にクロアチアも立て直しを図り先制したものの、イタリアは攻めて良し、守って良しで、総合力が高かった。

試合を振り返ると、予想通りの非常にハイレベルな戦いとなった。ユーロ2024のグループステージにおける屈指の好ゲームだったと言えるだろう。

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