元外資系金融勤務の女装家・肉乃小路ニクヨが語る“自分らしく”いるためのアドバイス

経済愛好家、ニューレディー、コラムニスト、YouTuberなど、さまざまな分野で活躍する肉乃小路ニクヨ。慶應義塾大学在学中に女装を始めて、証券会社に就職後、銀行と保険会社でキャリアを形成。会社員をしながらショウガール、ゲイバーのママとしても活動してきた。

最近では、経済・お金・ライフハックなどの分野で、有益な情報や独自の意見を発信している。そして、そのオリジナルのキャリアが活かされた著書『確実にお金を増やして、自由な私を生きる! 元外資系金融エリートが語る価値あるお金の増やし方』(KADOKAWA)も発売した。

ニュースクランチのインタビューでは、肉乃小路ニクヨさんの経験や知識だからこそ垣間見えてくる、いま知るべき“価値あるお金”について語ってもらった。

▲肉乃小路ニクヨ【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

球団の懐事情が気になっていた子ども時代

――肩書に「経済愛好家」とありますが、そもそも経済に興味を持ったきっかけから教えてください。

肉乃小路ニクヨ(以下・ニクヨ):子どものころから、新聞の経済欄や株価欄をよく見ていました。各企業に数字が記載されていて、日々、それが変わっていくことに面白さを感じていて。そのうち、数字が動いているのには、何か理由があることに気づいたんです。例えばニュースで、ある会社が問題を起こしたと報道されると、その会社の株価が下がっていたりして。

――ちなみに、何年生頃のお話ですか?

ニクヨ:小学3年生くらいですかね。

――えっ!? 小学3年生で株価に興味を?

ニクヨ:両親が仕事で忙しくて、わりと放置されて育てられたんです(笑)。もちろん、決してネグレクトというわけではありません。2人の姉がいるんですが、いつも遊んでくれるわけじゃない。だから、親に渡されたお金でスナック菓子ばかり買って、一人でテレビを見たり新聞を読んだり。それで太っちゃって……(笑)。

それと、親族が商売をしていたので、そういう環境も経済に興味を持った理由のひとつだと思います。

――学校から帰ると、家で一人で過ごすタイプだったんですね。

ニクヨ:そうですね。新聞も読んでいましたが、テレビっ子でもあったんです。CMがたくさん出ていると、“この会社は順調に成長しているんだなぁ”と思ったりして。

――同級生と話は合いましたか?

ニクヨ:合いませんでした(笑)。でも、プロ野球も好きだったんですよ。私たちの世代は、野球も子どもたちの話題のひとつ。でもやっぱり、私だけ興味を持つところが違って、選手の年俸や観客数だったり、数字に関することが気になってしまって。

5万人の観客で満員になる球団もあれば、5000人しか入らない球団もある。なんとなく、儲かっている・儲かっていないの違いがわかりました。もちろん、スポーツとして楽しんではいましたが、球団や選手の懐事情みたいなのもずっと気にしてました。

――普通の小学生とは着眼点が違いますね(笑)。のちに、慶應大学から証券会社に就職されました。そのときは「自分の好きなことを仕事にできる」という感覚だったのでしょうか?

ニクヨ:当時は、その感覚ではありませんでした。数字には強かったので、証券や金融関連の企業に就職すれば自分を活かせるかも、と考えていたくらい。好きか嫌いかなんてわからなかったです。

実際に働くようになって、お金をいただく対価で労働をして、それにより誰かが助かって、社会が回ってる。それがわかるようになって、ちゃんと経済が好きになりました。

▲同級生たちとは話が合いませんでしたね(笑)

――仕事へのやりがいは、少しずつ感じていったんですね。

ニクヨ:ただ、入社前の卒業旅行で急性肝炎になってしまって、即入院して新人研修も受けられませんでした。復帰後、朝6時に出社して、退社時間はそれほど遅くなかったけれど、先輩と飲みに行ったり、病み上がりでひいひい言いながら働いていたんです。このまま働いたら体を壊すと思って、3か月で退社しました。

――早い決断でしたね。

ニクヨ:さすがにこのままじゃダメだなと思って、前職在籍中に取った資格を活かして、金融商品の営業の仕事を始めました。自分が良いと思ったものを人に勧められる力を身につけなきゃいけないし、今後の自分にも役立つんじゃないかなって。

――ニクヨさんは話が上手なので、商品がバンバン売れそうですね。

ニクヨ:最初は全然うまくいきませんでした。商品知識はあるけれど、自分と同じ経済感覚でお客さまに営業していたんです。上司から「お客さまは君より経済力があるから、自分の感覚で話をするのは失礼だよ」と。当時の自分は若くて貧乏だったので、お客さまも同じ貧乏だと決めつけて話してしまっていたようです。

とにかく「生き金にしてほしい」という思い

――ニクヨさんの著書を読ませていただくと、不思議なことに自分のお金の相談をしてくれているような感覚になりました。単に知識量が豊富とか情報の解像度が高いだけじゃなく、読者の立場にあったアドバイスのようだなと。

ニクヨ:当時は電話営業が中心で、対面営業より回数をこなせたので鍛えられたと思います。話すのと文字とでは伝わり方は違うと思いますが、私の場合は頭の中でしゃべったことを書き起こしているので、音読っぽい感じで伝わりやすさにつながっているのかもしれません。

内容に関しては、実際は銀行や証券会社の窓口にいる人も、当然ですが私以上に説明できるんです。でも、本当に興味があったり、買ってみるぞ! とならないと、窓口に行かないですよね。なので、私はそういう方々の代表だと思いながら、私の立場で伝えられたらいいなって。興味があれば、一度、窓口に行ってみるのもいいですよ。そう言いながら、著書ではネット証券を勧めてしまってますが(笑)。

――タイトルにもある“価値あるお金”がキーワードになっているかと思います。あらためて、ご自身にとって“価値あるお金”とは?

ニクヨ:まずは自分自身を、自分の人生の経営者のように考えることが一番のポイントになると思います。自分を会社みたいに考えて経営していくと、やっぱり価値がある会社にしていきたいと思いませんか?

長く続いたり働きやすかったり、そういう部分に価値を求める人もいれば、規模を大きくしていくことに価値を見い出す人もいる。それぞれ、なんらかの目的があり、そのために使ったり増やしたりしていきましょう、といった感じです。

――単に、どんどんお金を増やしましょう、ということではないですね。

ニクヨ:もちろん、準備から増やし方までのプロセスも本では紹介しています。ただ、それこそ世の中にたくさん正解が出回っていますよね。厚切りジェイソンさんのやり方だったり、後藤達也さんの『投資の教科書』だったり。

私の本でも基本的なことや増やし方も書いていますが、増やし方だけだとお金が生きてこない、そう自分の経験から思ったんです。だから、道具としてお金を使いこなしてほしいという気持ちを込めて、増やし方じゃない部分もたくさん書きました。ほかの方では書けない、私の経験や価値観など踏まえて、とにかく「生き金にしてほしい」という思いです。

自分の活動のあらゆるものが遺書のような感覚

――金融専門家とは違う、ニクヨさんならではの経験は、どんな部分に活かされていますか?

ニクヨ:貧乏時代も経験しましたし、女装というエンターテイメント産業の端くれとしてもやってきました。水商売やショーを通じて多様な人に接する機会もあり、さまざまな人種の方を見てきたことが、私のセールスポイントだと思ったんです。そして、いろいろな方のいろいろなお金の使い方も見ることができました。

――その一方で、当然、セクシャリティの部分で苦しい思いをされたこともあったと思うのですが。

ニクヨ:もちろん、昔はありましたね。それなりに優等生として生きてきたので、ゲイであることを自分で受け入れられない。テレビで『ねるとん紅鯨団』を見ていても、なぜ男女でくっつかなきゃダメなのかとか。バブル後半だったので、クリスマスはカップルがシティホテルに泊まるのがトレンディでしたが、そういう風潮にも絶望していました。

本屋の端っこにゲイ雑誌の『薔薇族』が売っていたけど、もちろん買えなくて。だったら、新宿二丁目まで行って、人目を気にせずに買おうとか。当時は世の中的にもすごく偏っていた見方をされていたので、本当に大変でした。

▲水商売やショーを通じて多様な人に接する機会が財産となった

――そういった独自の経験が、ご自身のアイデンティティや現在の活動につながっているのでしょうか?

ニクヨ:自分の活動のあらゆるものが、遺書みたいな感覚でやってるところがあって。お金のアドバイス、コラムの執筆、女装、YouTuber、どれも自分の足跡を残すような仕事としてやっています。それって、ある意味、傲慢ですけど、私は子どもも作らないし、残せるものがそれしかないじゃんって。だから、私でなければできないということにはこだわってはいます。逆に、お金を稼ぐためだけの仕事は受けていません。

そういう意味でも、好きな仕事を選べているのは、今までお金と向き合って、しっかり貯めたり使ったり運用したおかげだって思っています。“お金を持っただけで幸せになれます”とは言わないけれど、生きたお金があれば、お金のためにイヤなことをせずにいられる。だから、自分らしくいられるためにも、お金は大事だと言いたいです。

――昔は、お金の話をするのはよろしくない、みたいな風潮がありました。

ニクヨ:今でもそうですよ! みんな話したがらないけど、実はみんな気になっていますよね。お金があることでイヤなことをしないですむとか、逆に好きなことができるとか、結局、一番フェアな感じがするし、やっぱりお金は悪くないなと。

――ニクヨさんのような立場の方が話すと、また違った印象になりますね。

ニクヨ:女装の先輩からは、“はしたない!”と思われているようなところはあるんです。でも私は、ドラァグクイーンじゃなく「ニューレディー」だから、新しいことをしなきゃいけないのです。

私たちってニューレディーじゃね?

――ニューレディーの話が出ましたけど。ネーミングからしてすごい発明だなと思いました。

ニクヨ:もともと、ドリュー・バリネコさんが作った言葉なんです。ある日「ドラァグクイーンって、自分たちとは少し違うのよね」という感じでブツブツ言ってたら、「私たちって、ニューレディーじゃね?」って、まず二人で始めたんです。

――ドラァグクイーンとはどう違うのですか?

ニクヨ:「クイーン」と呼ばれる方は、役割として華やかで大げさな振る舞いを求められる。もちろん、自分も一応やってきたけれど、どこか性に合ってないと言いますか……。

私はもう少し実直というか、等身大でフラットな感じで話をするほうが合っていたのかな。クイーンっていうのがツラくなってきたときに「私たちはニューレディーじゃね?」って言われて、そうだ!って腑に落ちて。ニューレディーになり13年経つんですが、もうクイーンという意識はありません。

――ニクヨさんの魅力はご自身が持つ気品とか奥ゆかしさかなと。下ネタもあまり話されないイメージがあって、その意味でもニューレディーという言葉がしっくりきます。

ニクヨ:マツコ・デラックスさん、ミッツ・マングローブさんなどの影響かもしれません。長く活動されている方は、ものすごい知識量だし研究熱心だったりして。下ネタもたまには取り入れるけども、しつこくない。ドラァグクイーンというと、アングラカルチャーのアイコンというイメージですけど、アンダーグラウンドっていうのが昔から少し苦手でした。

――最初からそういう感覚はあったのですか?

ニクヨ:いや、昔は毛深い女装家で、もうアングラ中のアングラでした(笑)。でも、女装家を仕事としてやると決めて、ちょっとマイルドにしようと思って脱毛したんです。

――そうだったんですね。

ニクヨ:私の周りにいた人たちから刺激を受けて、映画も本も音楽も、もっと好きになろうと思いました。下ネタのうしろ立てがなくても、厚みを持った人たちがいて、そういう方々と切磋琢磨ではないけども、交流することができたことが一番の財産だったかもしれません。

▲今はクイーンという意識はありません

いつかは身軽になって旅に出たい

――ちなみに、女装をやめたいなと思ったことはありますか?

ニクヨ:それは一回もないんです。女装を通じてできた人とのつながりを失いたくないと思っていて。だから、会社員になっても女装は続けていたし、なにより私たちの接点は女装しかなかったので。

――女装する方もいれば、そうじゃない方もいらっしゃいますよね。

ニクヨ:私はこの世界に入ってすぐに女装をしました。なぜかというと、ファンと演者という関係性になると、一定の距離ができてしまう。演者同士であれば、もっと深いやり取りができるんじゃないかなと。なので、じつは最初から女装に興味があったわけじゃないんです。本当にトランスジェンダーの方には申し訳ないんですが、女装はそういった人たちに近づくための手段だったんだと思います。

――とはいえ、ドラァグクイーンとしての実績もすごいですよね。

ニクヨ:21歳から始めて、やっていくうちに深みにはまって27年間。結局、私の人生で一番続いていることが女装なんです。ただ、女装=ドラァグクイーンだと私自身らしくいられない部分があるので、私にとっては、ニューレディーとして女装も大切にしています。そんな私が、お金の大切さも伝えられたら、自分の遺書のひとつになるかなと。

――ニクヨさんご自身は、今後どのような人生を歩みたいと思っていますか?

ニクヨ:これからは体験価値が大切になってくると思いますので、世界中を旅することかな。去年も同じような抱負を語っていましたけど、実現できていませんね……。私って、本当にダメ人間でもあるんです。

――お忙しいとい思うので、時間が確保できたら少しずつでも実現できそうですけど。

ニクヨ:どこかで一度、身軽になって旅立ちたい願望があるんです。洋服やモノとか処分して。でも私、ぜんぜん片付けられないんです! 女装家ってモノ持ちじゃないと成立しないので……。それを一回ちゃんと片付けて、身も心も優雅に船旅とかもいいなって。

――その様子を、YouTubeなどで配信していただけたらうれしいです。

ニクヨ:そうですよね。お金ももう少し貯めることができたらいいなと思っていて。せっかく行くなら、今までよりも少し良い旅行を体験したいですから。


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