町田だけじゃない「J1、なでしこ、JFL首位チーム」シン・快進撃の舞台裏】(1)新潮流は「ハードワークと鈴木優磨」、宇佐美貴史を思わせるV宮崎「元日本代表」

ガンバ大阪で輝きを取り戻した宇佐美貴史。V宮崎には、彼のように攻撃面で「違い」を作ることができる天才がいる。撮影/原壮史(Sony α‐1)

現在、J1リーグに新たな風が吹いている。初昇格したばかりのFC町田ゼルビアが、折り返し地点を迎えても首位に立っているのだ。こうしたフレッシュな話題は、他のリーグにもある。なでしこリーグのヴィアマテラス宮崎と、JFLの高知ユナイテッドSCの「シン・快進撃」の秘密を、サッカージャーナリスト後藤健生が探る。

■町田の快進撃は「幸運」だけではない

J1リーグは折り返しの第19節を終了。J1初昇格のFC町田ゼルビアの快進撃が続いている。

昨年、就任した黒田剛監督が落とし込んだ徹底的に勝負にこだわる姿勢。そして、ピッチ上で誰もが手を抜くことない守備の戦術。そして、セットプレーやロングスローを駆使した多彩な得点の形。さらに、シーズン前には資金力を生かして、各ポジションに的確な補強も行っていた。

そうした要素を考えると、彼らが現在この位置にいることは大きな驚異ではあるが、けっして幸運だけによるものではないことが分かる。

もちろん、僕は躊躇なく時間稼ぎをしたり、危険な状況ではファウルで相手を止めることも厭わない彼らの姿勢については「アンチ・フットボール」的なアプローチだし、ロングスローというのはサッカーの本質から外れた“邪道”だと思うが、黒田監督が強いチームを作ってきた手腕については高く評価するのにやぶさかではない。

これから、J1リーグも後半戦に突入するが、町田に対する情報もいきわたり、各チームが対策を立ててくることは間違いない。だが、一方で策士の黒田監督と金明輝(キム・ミョンヒ)ヘッドコーチも手をこまねいているはずはない。

折り返し直後の第20節、第21節ではさっそく、町田の今後を占う試金石となるヴィッセル神戸、ガンバ大阪とのアウェーでの上位対決がある。注目したい。

■なでしこリーグ1部で「大きなサプライズ」

さて、J1リーグでは初昇格の町田が首位を走るという大きなサプライズがあったのだが、他のリーグでも同じような現象が起こっているのをご存じだろうか。

日本女子サッカーリーグ、通称「なでしこリーグ」はプロ化されたWEリーグの一つ下のカテゴリーとなる、女子サッカー界の2部リーグに当たるリーグだ。そのなでしこリーグ1部で首位を走っているのが、1部初昇格のヴィアマテラス宮崎(V宮崎)というチームである。

V宮崎は、一昨年までは九州リーグを戦っていた。

2021年に九州リーグ2部で全勝優勝を果たして1部に昇格し、さらに2022年には九州リーグ1部でも16戦全勝で優勝。昨年、なでしこリーグ2部に加入すると、14勝4分で優勝して、今年から1部に加わったチームだ。なでしこリーグ1部に到達するまで、リーグでの戦いでは1敗もしなかったのだ。

そのV宮崎は、1部リーグでも開幕戦で昨シーズン4位のスフィーダ世田谷に3対1で勝利すると、第2節では昨シーズン優勝のオルカ鴨川を4対0で粉砕。その後も、首位を走り続けて14試合終了時点で11勝1分2敗という成績で、2位のニッパツ横浜FCシーガルズに勝点4の差を付けて首位に立っているのだ。

去る6月9日には、後半戦に入った第12節で2位のニッパツとの直接対決があった。そして、V宮崎は後半アディショナルタイムの90+5分に板倉楓のゴールで勝利して首位の座を守り、その後の2試合では勝点を落としたものの、依然として2位に勝点4差での首位の座を保っている。

チームの特徴はいわゆる「カウンタープレス型」。全員がハードワークして、基本に忠実に守り、選手間の距離を短くしてボールサイドで相手を囲い込んでボールを奪いにかかる。寄せの速さと運動量の豊富さが生命線だ。強豪ニッパツ戦でも20分ほどで主導権を奪い、ニッパツはロングボールで対抗するしかなくなってしまった。

■攻撃面で「違い」を作る元日本代表ストライカー

攻撃の軸は、齊藤夕眞(旧名あかね)が担っている。

かつて浦和レッドダイヤモンズ・レディースやAC長野パルセイロ・レディースで活躍し、日本代表歴も持つFWまたはMFだ。

2019年にいったんは引退を発表したものの、2020年暮れにV宮崎で現役に復帰した。168センチと日本の女子選手としては大柄で、競り合いの強さもあり、前線で攻撃の核となっている。戦術眼も高いし、何よりも豊富な経験があるので非常に頼りになる存在だ。

ニッパツ戦で齊藤は、前半はツートップの下の位置でゲームを作っていたが、後半に入るとツートップの一角に入り、ポストプレーやドリブルシュートなどで攻撃をリードした。

J1リーグでも、数年前までは川崎フロンターレや横浜F・マリノスのような攻撃型のチームが「2点取られても3点取ればいい」というサッカーで他を圧倒していたが、彼らに対抗して各チームが守備を強化することにつながった。そして、川崎や横浜FMの退潮とも相まって、このところ堅守型のチームが上位を占めている。

かつて、攻撃サッカーで一世を風靡したガンバ大阪も、今シーズンはリーグ最少失点の守備力でタイトル奪回を狙っている。

「カウンタープレス型」は選手にハードワークを強いるだけに、「意識付け」に難しさはあるかもしれないが、チーム強化の順序として守備から入るのは当然のことだ。

なでしこリーグ1部で昇格1年目で首位を走るV宮崎も、やはり挑戦者として当然のことながら選手たちのハードワークを武器に戦っているのだ。

そして、G大阪では宇佐美貴史がトップ下的なポジションで活躍している。かつての“天才”宇佐美が、ハードワークのサッカーに順応しながらも、その独特の閃きと技術力によって攻撃のリズムを変え、攻撃にアクセントを加えているのだ。

やはり、ハードワークをベースとして選手個々の能力を生かすサッカーをしている鹿島アントラーズでも、やはり鈴木優磨という選手がスペシャルなものを加えている。

V宮崎も「カウンタープレス型」サッカーの中で、齊藤というFWが攻撃面で違いを作っているのだ。

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