長生きしたけりゃ最後は噛む力(2)咀嚼力アップで認知症状が改善

口腔ケアは大事

高齢化とともに増加する認知症。2025年には、その数が約700万人(65歳以上の約5人に1人)になると予測されています(厚労省推計)。

認知症予防に関する意識調査(2021年太陽生命保険)では、もっともなりたくない病気のトップに認知症があげられており、認知症予防が多くの人の関心事になっていることがわかります。

認知症予防で注目されているのが、「噛む」(咀嚼)ことです。

正しくしっかり噛むことが記憶力や意欲を高め、認知症予防につながることが、さまざまな実験や研究で明らかになっています。

「寝たきりで会話のない高齢者が、治療や口腔ケアで噛めるようになると、栄養状態がよくなり、意欲を取りもどして認知症状が改善することがあります」

こう話すのは、歯科医の金沢紘史・日本顎咬合学会次期理事長です。

医療現場でも、高齢者が治療で噛めるようになると、元気を取りもどす例が報告されているそうです。

金沢次期理事長によると、大脳皮質の面積の4割が歯・顎・唇・舌といった咬合咀嚼機能に関係しており、噛むことは脳に刺激を与え、意欲を引き出すことにつながるそうです。

実際、MRIや脳波の測定などの実験では、噛むと脳血流が増加し、脳が活性化することが証明されています。さらに、嗅覚や味覚、触覚といった感覚をつかさどる脳の領域が活発に動くことも確認され、特に高齢者では思考、学習など高度な働きをする前頭前野、記憶をつかさどる海馬が活性化されることもわかってきたのです(東京都健康長寿医療センター研究所など複数の研究)。

認知症は歯周病とも関係があるといわれています。国立長寿医療研究センターの調査によると、慢性歯周炎のある人には明らかな認知機能の低下が見られるということです。

認知症の中でもっとも多いアルツハイマー病は脳にアミロイドβが蓄積されることが原因と言われています。歯周病菌はこのアミロイドβの蓄積を促進するのではないかとも考えられているのです。2013年には米国の医学専門誌(「JAD」)で、アルツハイマー病の患者の脳から歯周病菌が検出されたと発表され、話題になりました。現在も各国で歯周病菌とアルツハイマー病の関係を示す研究が行われています。

「歯を失って入れ歯やブリッジを入れてない人は、食べたり話したりする能力も衰えます。それが意欲や認知機能の低下につながっていくのです。歯周病は歯を失う原因のトップです。歯を失わないためには歯周病を予防し、かかってもきちんと治療すること。噛む力を維持し、認知症を予防するためにも口の健康は欠かせません」(金沢次期理事長)

認知症は要介護になる最大の原因です(「令和元年版高齢社会白書」内閣府)。元気で自立した生活を目指すなら、まずは口の健康から始めたらいかがでしょう。=つづく

(医療ジャーナリスト・油井香代子)

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