ハリウッド俳優・森崎ウィン、巨匠スティーヴン・スピルバーグとの共演秘話“超一流のひと言に感銘”

森崎ウィン 撮影/冨田望

森崎ウィンさんは、2018年公開のハリウッド超大作『レディ・プレイヤー1』で主要キャストのダイトウ/トシロウを演じ一躍脚光を浴びると、’19年に出演した映画『蜜蜂と遠雷』では第43回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。また翌年にはミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2の主人公・トニー役を演じ、高い評価を獲得している。以降も、映画や舞台を中心に幅広く活躍し続けている森崎さんの転機「THE CHANGE」とは、いったいなんだったのだろうか。

森崎さんは‘18年公開、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』にダイトウ / トシロウ役で出演し、一躍世界にその名を轟(とどろ)かせることになった。果たしてどのようにしてこの役を得ることができたのか、まずはそこから話を聞いてみた。

「オーディションを受けたんですよね。でもそこから8か月間は何の音沙汰もなかったんです。その後ようやく通知が来て、合格することができました。そのころは、どの作品に出演するときもオーディションを受けていたのですが、『レディ~』が決まってからは、作品サイドからオファーをいただくことが多くなりました」

本作は世界中で大ヒットし、日本においても森崎さんが広く知られるきっかけとなった。映画の本場ハリウッドでの撮影はどのようなものだったのだろうか。

「やっぱりお金がかかっているので、参加するスタッフの人数も多くて、コーヒーを運ぶ役目だけの方もいるんですよ。オーディションで呼ばれたときも、飛行機の席はビジネスクラスでしたし、宿泊先までハイヤーが迎えに来てくれました。あとは、長期間の撮影スケジュールが押さえられますが、日本と比べると一日の労働時間もちゃんと決まっているんですよね」

やはりハリウッド、さすがにお金のかけ方が桁外れだ。では、監督のスティーブン・スピバーグとはどんなやり取りをしたのだろうか。森崎さんに聞くと、もはや伝説的な存在となっている世界的名監督とは思えない、気さくな横顔を垣間見ることができた。

「もう本当にただただ映画が好きな方っていう印象です。レジェンドですし、神みたいな存在なんですけど、現場では他の物作りが好きな人たちと変わらない印象でしたね。僕にも“親子だと思って接してね”と声をかけてくれたし、とにかく周りに気を遣わせないようにしてくれるんです。スピルバーグを前にしたら誰でも緊張しちゃうので、あえてそういうふうにふるまってくれているんですよね」

こうして世界的な巨匠の作品に参加することになった森崎さん。同年代の共演者も多く、和気あいあいとした現場だったが、主演を務めたハリウッドスターのタイ・シェリダンとは特に親しくなったようだ。

「とても仲良くさせてもらったんですが、彼からは“世界的な作品で主演を務めるっていうのはこういうことなんだ”と痛感させられました。芝居が一流なだけでなく、人柄も本当に素晴らしいんですよね。僕の英語も完璧ではないので、得意じゃないというのを理解したうえで、それでもあきらめずにたくさん話しかけてくれました。分からないことについては丁寧に説明してくれましたね」

ハリウッド作品への出演が俳優業の弾みに

ハリウッドでの貴重な経験を経て、森崎さんのさらなる躍進が始まる。翌年に公開された映画『蜜蜂と遠雷』では第43回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。そして’20年に上演されたミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2では、主人公・トニー役を射止めた。当時を振り返り森崎さんは語る。

「オーディションに受かったときは純粋に嬉しかったです。ただ、そのころはまだミュージカルに詳しくなかったので、苦労もしました。例えば発声の仕方ひとつとっても、それまで僕が歌ってきたやり方とは全然違うものだったんです。僕も本格的な声楽を学んできたわけではなかったので」

そんな困難を乗り越え森崎さんは必死で役をつかみ、晴れて上演された舞台は絶賛で幕を開けた。ところが残り13公演を残した’20年2月27日、新型コロナウィルス感染症の拡大を防ぐため、突如公演は中止になってしまう。

「急にスパっと舞台がなくなってしまって、すごく無力感に襲われました。また同年に、シンガーとしてソロのメジャーデビューをしたのですが、無観客でライブをしなければいけなくなってしまって。みなさんにちゃんと僕の思いが届くのかな、と思いましたね。やっぱりライブは観客の皆さんに直接披露してなんぼのものだと思うので、すごくつらかったですね」

やがてコロナも落ち着き、舞台の活動やライブ活動を再開していく。

「観客のみなさんに会場へ戻ってきていただけるようになって、去年ようやく全国ツアーができるようになりました。一方で、テレビなどでいまだに後遺症で苦しんでいらっしゃる方たちを見ると、こうやって再びライブをやれているということ自体に、まず感謝しなければいけないと思いました。いろいろなことを欲を出して求めるのではなく、できることから少しづつやっていかなきゃいけないって」

順調に進んできた歩みが突然止められることがあっても、焦らず、しっかり足元を確かめ、前を向く。未来につながっていくそんな気持ちの変化「THE CHANGE」が、森崎さんの立つ舞台を、いま明るく照らしている。

森崎ウィン 撮影/冨田望

森崎ウィン(もりさき・うぃん)
1990年8月20日生まれ、ミャンマー出身。’18年公開のハリウッド超大作『レディ・プレイヤー1』で主要キャストを演じ、一躍脚光を浴びる。‘20年に映画『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。同年、ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2で主演を務める。近年はNHK大河ドラマ『どうする家康』に出演するなど映画、ドラマ、舞台で幅広く活躍。7月15日に開催される『ミュージカルは最強です!2024』では、昨年に引き続きコントにも挑戦する。

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