池江璃花子は「まだ戻り切っていない。現時点で結果を求めるのは酷」レジェンド松田丈志氏が占う女子競泳【パリ五輪メダル有力競技 ココが見どころ】

五輪の舞台に戻ってきた池江(C)共同通信社

【パリ五輪メダル有力競技 ココが見どころ】

競泳(池江璃花子 編)

東京五輪では大橋悠依(28)の金2個に沸いた競泳だが、男子は本多灯(22)の銀1個にとどまった。白血病から復活した池江璃花子(23)、競泳陣最年長ながら自己ベストを更新するベテランの鈴木聡美(33)など注目選手が多い今大会で競泳ニッポンの復権はあるか。五輪4大会に出場して計4個のメダルを獲得した松田丈志氏が占う。今回は【池江編】。

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みなさん、女子100メートルバタフライに出場する池江に期待していると思います。3月の選考会の準決勝で57秒03をマーク。56秒台目前のタイムで泳ぎましたが、やっと闘病前のタイムの射程圏内に入ったかなという状況です。復帰してからの歩みは本人が想像するよりもかなり遅いのだと思う。本当に時間がかかっていて、まだ戻りきっていない。世界の中での位置でいうと、2018年の自分の記録がやっと射程圏内に入ってきたのであって、記録としてはもう6年前なわけです。世界はそこからさらに進化しているので、「メダルを狙うぞ!」というところまでは来ていない。つまり、個人的な記録と決勝入賞が具体的な目標になるのかなというのが正直なところです。

五輪の舞台に戻ってきただけでも素晴らしいことで、現時点で結果を求めるのは本人にとっても酷です。ただ、期待するところがあるとすれば、オーストラリアでのトレーニングでどこまで状態を上げていけるか。オーストラリアの環境が璃花子には合っていると思うんです。璃花子の場合、どうしても国内にいると目立つ存在。どこ行っても注目されるから気を使わなきゃいけないけど、海外だと誰も知らない状況の中で、同じチーム内にも世界のトップ選手が集まっている。璃花子が特別速い存在ではない。その中で揉まれるのがおそらく彼女にとっていいと思います。

オーストラリアは気候や雰囲気が良くてトレーニングしやすい

オーストラリアは僕も合宿で30回以上行っていますが、とにかく気候や雰囲気が良くてトレーニングしやすい。海外で気持ち的にのびのびリラックスしながら世界のライバルたちが集まるチームでマイケル・ボール・コーチの指導を受けているので、3月の選考会から4カ月でどこまでいけるか。

マイケルコーチは僕も05年、アテネ五輪後くらいに3週間ほど指導してもらったことがある。選手育成の経験が豊富で、男子も女子も、短距離も中距離も長距離も、結果を出している。すごく指導の引き出しが多い人で、選手を気持ちよく頑張らせるのもうまい。練習メニューの内容、声掛け、ポジティブな雰囲気のつくり方が絶妙で、怒ったところをあまり見たことがない。璃花子も「ちょっとしたことでもすごく褒めてくれて、いいところをちゃんと言ってもらえるのがうれしい」と言っていましたね。(【男子編】につづく)

◆松田丈志(まつだ・たけし) 1984年、宮崎県延岡市生まれ。04年アテネ大会から4大会連続五輪出場。08年北京五輪男子200メートルバタフライで銅、12年ロンドン五輪男子4×100メートルメドレーリレーでの銀など4つのメダルを獲得。16年に現役引退。現在はスポーツジャーナリストとしても活動する。

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