全米女子プロ最終日 山下美夢有には痛恨の8番に…「流れ」を手放し勝利の女神に逃げられた(羽川豊)

悔やまれる2位(C)ロイター/USA TODAY Sports

【羽川豊の視点 Weekly Watch】

山下美夢有(22)が3打差2位タイに終わった全米女子プロゴルフは、改めて勝負の「流れ」を感じさせる戦いでした。

シアトル郊外のサハリーCCは、1998年に男子の全米プロが行われ、現地で解説したことがあります。ホールをセパレートする7500本超の樹木は当時より高く育ち、長い枝がフェアウエーにせり出しているところもある。ティーショットの精度がより求められるコースです。

山下はドライバーが安定していたことが好スコアの要因でしたが、最終日は通算6アンダーで迎えた8番(パー4)でつまずきました。第1打は左バンカー右横のラフに曲げ、第2打はバンカー内にスタンスを取り、ボールは膝上の高さ。クラブを短く持ちハーフスイングでフェアウエーに戻したが、第3打が右のガードバンカーにつかまり、寄らず入らず。このホールのダブルボギーで「流れ」が変わったのです。

対照的に、優勝したエイミー・ヤンは5番パー3のチップインバーディーで、悪くなりかけていた「流れ」を引き戻しました。

勝負事にはある局面を境目にして「流れ」をつかんだり、逆に失うことがあります。「流れ」に乗ってプレーしていると、やがて極度に集中力が高まり、目の前の1打に没頭。雑音は一切耳に入らなくなります。信じられないほどバーディーが連続する、いわゆる「ゾーンに入る」というケースがまれにある。

両者のスコアはバック9で動きましたが、山下にとっては8番のミスが大きな敗因になりました。

国内では2年連続年間女王になっている山下ですから重圧に負けたわけではないでしょう。それでも海外メジャーの優勝争いは別格です。優勝の2文字がチラつけば、誰でも力みや打ち急ぎとなって現れます。いつも以上に冷静なメンタルコントロールが重要になります。山下にとって今回の敗戦は新たな課題となったことでしょう。

その山下や古江彩佳、西村優菜の活躍で、身長が150センチぐらいで小柄かつ、飛距離で劣っている選手でもパワーゴルフに対抗できることは証明されています。全米女子オープンは笹生優花と渋野日向子がワン・ツー・フィニッシュを決め、5人がベスト10入り。今回も3人がトップ10でフィニッシュしました。日本選手が力をつけてきたことは間違いありません。

海外では国内とは違う芝とグリーンに早く慣れること。ここぞというときにチャンスパットを決めて「流れ」を持ってくる。あるいは、ピンチをしのぎ「流れ」を離さずプレーできるか。

「あの1打が……」と悔やむ惜敗で学ぶことは多いものの、その学びを結果に結びつけて欲しい。そんな苦言を呈することができる時代になったということです。

(羽川豊/プロゴルファー)

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