久保原心優の原点回帰――落ちて受ける、抜け出せる、ポストプレーもできる。「市船の10番らしいなと思わせたい」

昨年度の高校選手権でベスト4に進出し、12年ぶりに国立競技場に戻ってきた名門・市立船橋。この躍進の中で絶対的エースの郡司璃来(現・清水エスパルス)に注目が集まる一方で、郡司と2トップを組んだ2年生ストライカー久保原心優にも、勝ち上がるにつれてスポットライトが当たっていった。

郡司が1.5列目でフリーマン的な動きで虎視淡々とゴールを狙うなかで、久保原は最前列で相手DFを背負いながら、ロングボールや縦パスを収めて起点を作り出す。

そのパワーとポストプレーの質に加え、周りにボールを預けると、そのままゴール前のスペースに飛び出しラストパスを受けてフィニッシャーにもなる。準々決勝の名古屋戦で先制点を頭で押し込むと、準決勝の青森山田戦でも終盤に貴重な同点ゴールを叩き込んだ。

選手権で3ゴール。郡司に次ぐ存在感を放った久保原は、新チームとなって10番を引き継いだ。

「来年は自分が郡司君のようにゴールという形でチームを牽引していかないといけないと思っているので、自覚と責任を持ってやっていきたい」と選手権後に語っていたが、今年のプレミアリーグEASTでは苦しい時間を過ごすこととなった。

開幕戦を落とすと、そこからインターハイ予選による中断までの8試合で6敗2分の戦績で最下位に沈んだ。久保原は8試合すべてに出場しながらもノーゴール。チーム全体でも8試合で2ゴールしか挙げることができなかった。

「今年は昨年の郡司君のように、1.5列目からスペースに出たり、前に仕掛けたりしてゴールを奪うことを意識していたのですが、それではなかなか結果が出せない。自分なりに自問自答をしながら考えました」

どん底の状態で臨んだインターハイ予選でも苦難の連続だったが、ここで久保原は新たな心境を抱いてプレーすることができた。

「プレミアの8試合までは競り合いの部分を伊丹などに任せてしまっていた部分があった。『それで本当にチームに貢献できているのか、チームが勝つための力になっているのか』と自分なりに考えた結果、人任せにせず去年のように自分が身体を張るプレーもやるべきだと考えました」

たとえ自分がゴールを決めなくても、前線で身体を張ってポストプレーをしたり、相手を引き付けてキープしたりすることで前線に起点を作り出せば、信頼する仲間たちが決めてくれる。こう考えるようになったことで、チームの攻撃も彼のプレーも徐々に歯車が噛み合うようになっていった。

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好転する流れが生まれたことで、インターハイ予選でチームは劇的な戦いぶりで勝ち上がっていく。準々決勝の中央学院戦では後半37分まで0-1で相手にリードされる展開だったが、終盤にCB岡部タリクカナイ颯斗が目の覚めるようなミドルシュートを突き刺して同点に追いつくと、終了間際に1年生FW勝又悠月の逆転弾で勝利。準決勝の東京学館戦でも1-1で迎えた延長前半にFW伊丹俊元が決めて、2試合連続で薄氷の勝利を収めた。

そしてプレミアEAST首位を無敗で独走するライバル流通経済大柏との決勝戦では、ついに待望のゴールが生まれた。左からの折り返しに気迫のダイビングヘッド。チームに先制点をもたらすと、一度は同点に追いつかれるもすぐに勝ち越して、そのまま2-1の勝利を掴んで3年連続となるインターハイ出場を果たした。

「原点回帰ですね。僕は落ちて受けることもできるし、抜け出せるし、ポストプレーもできるのが特長。プレーしていてなんか懐かしいというか、『やっぱりこれだな』と思うことができた」

インターハイ予選開けのプレミアEAST第9節の流通経済大柏との再戦でも、久保原は最前線でチームのために身体を張り続けた。特に後半は最終ラインからのロングボールを巧みに収め、周りを活用したことで試合の流れをチームに引き寄せた。試合は1-1のドロー。自身の今季プレミア初ゴール、チームの初勝利とはいかなかったが、非常に大きな意味を持つ勝点1を手にした。

「まだ去年の10番のような結果を出せていないけど、自分は自分らしく行こうと思っています。チームとしては『市船らしいな』という粘り強いサッカーを見せられるようになってきたので、今度は『市船の10番らしいな』と思わせるプレーをしていきたいです。あくまでも僕が勝たせるというより、市船が勝つために自分のできることを全力でやる。これを大切にしていきたいと思っています」

泥臭く、前向きに。久保原らしい10番像をこれから全国に発信するべく、彼は仲間と共に自分の持ち味を貪欲に発揮していく。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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