新中野・「日本酒居酒屋 鍋横 赤燈-retto-」で地酒に浸かる夜

【酒場レコード・1】東京メトロ・新中野駅に隣接する「鍋屋横丁(通称、鍋横)」は江戸中期から続く商店街。新旧さまざまな店舗が入り混じり、「むさしの玉屋」の求肥(ぎゅうひ)の入った最中、「鳳月堂」のどら焼きが旨く、折々通うなじみの商店街だ。その鍋横に軒を連ねるのが今晩の酒場、日本酒居酒屋「赤燈(れっと)」。日本酒は女将が好む酸味と甘味のバランスがとれた銘柄を中心に、常時40種類以上がラインアップされている。旬の魚や野菜を使った手料理を楽しみながら、全国の地酒に浸かることができる大人の店なのだ。

赤燈は鍋横沿いに店を構える
レンガ色に獺祭の垂れ幕が目印

開店直後に入店

18時の開店直後に入店。座席数はカウンター10席、テーブル4人席が二つ、6人席が一つ。和紙シェードの燈が「お前、落ち着けよ」と訴えているにもかかわらず、壁一面に掲示されているメニューに興奮してしまう。壁のメニューを眺めるのは酒場の醍醐味だけど、心が躍り目移りして集中できない。酒場に入店直後はいつもこうだ。

開店直後は落ち着いているがすぐに席は埋まる
こういうメニュー掲示が最高に楽しい
日本酒はこれ以外にも限定メニューがあり目移りしまくる(2024年6月時点のもの)

生ビールとタケノコ煮

絶品!出汁染みるタケノコ煮

乾杯は「生ビール」(サッポロ黒ラベル、630円)、お通しは旬の「タケノコ煮」。このお通しが旨い。出汁で潤ったタケノコはコリっとした食感。鼻に抜ける香りは夏の始まりを告げる。出汁の好みが合う店は敬い大切にしないといけない。

赤星とたこ吸盤ポン酢

赤星の溢れた泡さえ愛おしい

気温が高くビールが旨いので「サッポロラガービール赤星」(中瓶、700円)を追加。仕事明けに飲む赤星の旨さは危険だ。仕事中に思い出すと、飲みたくてたまらなくなる。このような現象を中毒と呼ぶ。

赤星と合わせるのは「タコ吸盤ポン酢」(680円)。ポン酢好きにはたまらん。タコの吸盤に絡みついたポン酢を食べる。紅葉ポン酢で引き出されたタコの旨み、ちょうどいい厚みで食感が心地よく、赤星が止まらない。ゴクゴク、そして喉は潤った。

食感とポン酢を楽しむ「タコ吸盤ポン酢」

茜さすと水なす

土屋酒造店 茜さす 純米吟醸 瓶火入原酒

1杯目の日本酒は「茜さす」(770円)。長野県佐久市の土屋酒造店が醸す。「茜さす」を飲みながら、「あかねさす」という言葉が記された万葉集の話をする。額田王が詠んだ恋の歌の話がこんなに楽しいなんて知らなかった。人生は修行で、酒場は教場である。

華やかなで深い旨みを持つ「茜さす」に合わせたつまみは「水なすの刺身」(460円)。からし醤油で食べても旨いが、塩をつけて食べると思わず唸るくらい旨い!水なすの蜜壺が爆発的にほとばしる。塩で覚醒した水なすを茜さすでキメる。飛んだ。

「水なすの刺身」は夏季限定、今しか食べることができません

飛露喜ともつ煮込み

大女将が飛露喜をなみなみと注いでくれる
飛露喜 純米吟醸

2杯目は「飛露喜 純米吟醸」(880円)。福島県会津で醸される「飛露喜」の果実香の爽やかさと強いコクと旨みにしばし感動。テーブルの話題は万葉集から村上龍へ移っている。30年前の小説は筆者の血肉となっている。今、私のmacは「ちにく」を「恥肉」と変換したが、龍さんの官能的な小説を思い返せば正解である気がする。

「飛露喜」と合わせたのは「もつ煮込み」(660円)。具材はモツとこんにゃくのみ。ひとくち食べるとモツの旨みとカツオ出汁が香る味噌味が広がる。モツとカツオの融合は上品で繊細で洗練されている。そして酒に合う。高血圧の不安があるのに汁まで飲んでしまう。肉体的氾濫のギリギリを攻めてしまう魅惑の味。

カツオ出汁香る「もつ煮込み」

豊盃と本日の鮮魚のなめろう

豊盃 純米吟醸 ウィンター生酒

3杯目は青森の酒、「豊盃 純米吟醸 ウィンター生酒」(880円)。豊盃米で仕込まれた酒は三浦酒造が醸す「豊盃」でしか飲めないので見つけたら飲む。都内の酒屋で「豊盃」を買うことは難しいが赤燈では飲める。酒場のいいところは飲みたい酒と、それに合った旨いつまみを楽しめること。

豊盃のお供は、本日の鮮魚と薬味を特製味噌で叩いた「なめろう」(980円)。魚の仕入れ次第で味が変わるので、今日しか食べることができないスペシャルレアな味。焼き海苔に包んで口の中に放り込む。噛み締めると口の中に海が広がる。

本日の鮮魚を特製味噌で叩いた「なめろう」

長珍と若さぎの天ぷら

長珍 備前雄町 7-65 純米 無濾過生

4杯目は愛知県で醸された「長珍 備前雄町 7-65 純米 無濾過生」(880円)。想像していた雄町の酒とは一味違う旨さ。面白いなあ、またひとつ経験値が増えた。4杯目を迎えても筆者の舌に痺れはない、本日は調子が良い。

「若さぎ天ぷら」(660円)は、キモの味を楽しむために食べる。魚のキモと日本酒の食べ合わせが好きなのだ。サンマだとキモは取り合いになるが、若さぎは白身とキモを一口で同時に楽しむことができるので、争いは起きない。旨くて平和的な魚。サクサクに揚がった衣が若さぎを引き立てる。

諏訪湖を想いながら食べる「若さぎ天ぷら」

而今と銀ひらす西京焼

而今 特別純米

〆は三重の酒、「而今 特別純米」(880円)。「而今=今、この瞬間」という意味の禅語。この宇宙を思わせる名前の酒の味は、ご承知の通り激しく旨い。そう、而今は激しいのだ。

「而今」と合わせるのは「銀ひらす西京焼」(980円)。表面はカリッと、分厚い身はフワッと焼かれていて女将のテクに感服する逸品。西京の甘みと白身の脂を「而今」で切り裂く。今この瞬間は、ただ旨いものに溢れている。そして次の瞬間、飲みすぎたことに気づくのである。

分厚い切り身が嬉しい「銀ひらす西京焼」

今晩も酔ってしまった。赤燈さんの広くてお洒落なお手洗いの鏡に映るニヤけ面で我に返る。もっと食べたかったのに満腹になってしまった情けなさは、再訪への橋にして気持ちよく帰ろう。赤燈さん、いつも満足させていただきありがとうございます。次は「チキン南蛮」を食べます!

今回の酒場:日本酒居酒屋 鍋横 赤燈-retto-

鍋横 赤燈は、地下鉄丸の内線、新中野駅から徒歩4分。鍋横商店街に面し獺祭の垂れ幕が目印の日本酒酒場。割烹着姿がナイスな女将が作る季節感あふれる旨い料理と、心優しい大女将がグラス擦れ擦れまで注いでくれる全国のレア地酒が楽しめる。お財布が寂しい時でも本日のサービス酒が330円から飲めるのが嬉しい。予約してのご来店がお勧め。(ナードワード社・國安淳史)

日本酒居酒屋 鍋横 赤燈-retto-

「日本酒居酒屋 鍋横 赤燈-retto-」

住所:東京都中野区本町4-43-16 ミカサビル101

電話:03-3384-9900

営業時間:18:00~翌0:00

営業日:月~土、祝日、祝前日

■Profile

國安淳史
ナードワード社 代表取締役。外資系IT企業などを経て2018年にWeb・Shopify・各種デザイン制作、商品企画などを提供するナードワード社を設立。KISOと共創した「日本酒器 hiyakan PRO」はECサイトや百貨店等で販売中。趣味は音楽、読書、飲酒。

© 株式会社BCN