国内最大手の金融グループによるルール破りは看過できない。
顧客企業の未公開情報を同意なく共有したとして、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の銀行と証券会社2社に金融庁が業務改善命令を出した。
金融商品取引法で銀行と証券会社の情報共有を制限している「ファイアウオール規制」に違反し、公正な競争を阻害したと認定した。
「銀証連携」への規制緩和を求める一方で、法令順守の意識を欠いた不祥事が相次ぐ金融業界の信用低下は避けられまい。
同規制は、銀行が子会社を通じて証券業務に参入するのを認められた1993年に導入された。
融資先に優位な銀行の立場から、得た情報を証券の営業に利用するのを防ぎ、独立系証券との競争条件を公平にするためだ。
金融再編が進む中で段階的に緩和され、2009年以降は法人顧客が拒否を申し出ない限り共有できることになった。
だが、三菱UFJ銀行は21~23年、顧客企業の意向に反して9社計10件で未公開情報を系列証券会社と共有していた。企業が株式や社債を売り出す際の主幹事証券会社になるため、銀行役員が売り出しの価格や時期を漏らしていた。
銀行に禁じられている有価証券関連業務を行い、融資条件として社債の引き受け拡大を迫る「抱き合わせ」勧誘を行っていたことも認定された。
詳しい原因と責任の所在を明確にし、徹底した再発防止策に取り組むことが不可欠だ。
解せないのは、親会社のMUFGへの行政処分に踏み込まなかったことだ。検査した証券取引等監視委員会には、処分勧告を求める声が強かったというが、金融庁は「グループ内で情報管理の徹底に向けた取り組みが進んでいる」と処分を見送った。抱き合わせ勧誘の事実があっても銀行の優越的地位の乱用とは認めなかった。
政府が旗を振る資産運用立国への配慮を疑わざるを得ない。
大手の金融グループ(FG)では近年、みずほFGのシステム障害、三井住友FGの不正な相場操縦などで行政処分が続いている。
それでも政府は、銀証連携への規制緩和を進める姿勢だ。総合サービスで利便性が高まる期待がある一方、立場の弱い借り手の個人や中小業者への銀行の押し付けが横行しないか、懸念が拭えない。
金融業界として、公正な営業と競争のルールを堅守する体制への再構築を図るべきだ。