『虎に翼』の寅子に共感! 77歳の若手芸人おばあちゃん「やりたいことをやればいい」

1947年生まれ、77歳で吉本興業の若手芸人として活動するピン芸人の「おばあちゃん」。昨年6月に神保町よしもと漫才劇場の所属メンバーとなると、テレビなどメディアへの出演も増加、さらには書籍を発売するなど注目を集めている。

おばちゃん自身は、この一年の変化をどう捉えているのか。「まだまだ勉強ばかり」だというおばちゃんの芸人人生についてもインタビューで聞いた。

▲おばあちゃん【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

「おばあちゃん、俺たちはもう芸人なんだよ!」

定年退職後、高齢者劇団に参加するようになり、活動を続けるなかで舞台を基礎から勉強してみたいと一念発起。年齢関係なく入れるNSC(吉本総合芸能学院)に71歳で入学したおばあちゃん。「もともと、芸人になれるとは思ってませんでした」と笑う。そのため、NSC卒業後の活動も、その勉強の延長だった。

「渋谷で月3~4回、舞台に立たせていただいていたんですけど、それでじゅうぶん満足していたんです。若い皆さんと勉強させていただいたり、ネタについて作家さんと考えることで脳の活性化になっていましたし。

だけど、ある日、同期の男の子に“あなた仕事はどうするの? いつになったら働くの?”って聞いたら、“おばあちゃん、なに言ってんの! 俺たちはもう芸人なんだよ!”って言われました。“え、芸人なの!?”って聞き返したら、“そうだよ、売れない芸人だよ!”って(笑)。

二人で大笑いしたんですよ。NSCを卒業してから3年ぐらいは自分が芸人だっていうことを認識してなかったので、いつの間にか芸人になっていたんだ……という感覚でした」

そんなおばあちゃんの活動が大きく変化し始めたのは、昨年6月だ。芸歴5年目でオーディションバトルを勝ち上がり、神保町よしもと漫才劇場の所属メンバーとなった。

「オーディションの結果が出た次の日、友人たちと温泉に行ってたんですよ。そしたら私のスマホが鳴り続けて。友人たちが“もしかして、吉本でなんかあったんでしょ!”って言うから、“なんにもないはずなんだけど……”って言いながら確認したら、“この日、空いてますか? この日はどうですか?”って、仕事の連絡がたくさん来ていたんです」

そこからの一年、『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系列)、『まつもtoなかい』(フジテレビ系列)への出演や、講演会の開催、書籍『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを -77歳 後期高齢者 芸歴5年 芸名・おばあちゃん-』(ヨシモトブックス)の発売など、芸人としての仕事を多岐にわたって経験していく。

「もう激変なんてものじゃないです。急にそんなことになったから、自分でも何がなんだかわからなかったですね。私はまだまだ芸人として勉強不足だし、この世界についてもよくわかっていないけど、まわりの方々にサポートしていただきながら、冥土の土産だなぁなんて思いながら、いろんな経験をさせてもらってます。予想もしてなかったようなことばかりでしたが、この1年間、なんとか無事に活動できました」

また、仕事量や内容だけでなく、注目を集めたことで舞台に立つうえでの心境にも変化があった。

「最近の舞台は緊張しちゃうんですよ。以前は、どうせ私の話なんて聞いてないんだろうし、若い子たちには私のネタがわからないだろう、みたいなズルさもあったんですけど、最近、街でもよく声をかけられるようになって、ちゃんとやらなきゃと思うようになりました。

わざわざ神保町や渋谷まで交通費をかけて、時間をかけて来てくださってる方々を前に、ちゃんとネタができないと申し訳がない、という気持ちが強くて。本当にありがたいなって思います。

この前も、本のサイン会を東京でしたときに、北海道から来てくださった方がいたんです。ネットとかでいろいろ見てくださったそうで、“会ってお話したいから北海道から来ました”って言われたときは、本当にうれしくて涙が出ましたね

▲ファンの方がわざわざ北海道から会いに来てくれたんです

芸人になれるなんて私も思ってなかった

ご主人の反応を聞くと、まさかこんなことになるとは思っていないから、びっくりしてますねと笑う。そもそも70歳を過ぎてNSCに入ったことだけでも、ご主人にとっては驚きだったのではないかと思うが、特に反対などはされなかったそうだ。

「結婚したとき、主人から“40歳までは一切口を出さずに、俺の好きなことをさせてくれ”って言われたんです。それで、そのかわりに40歳を過ぎたら私が好きなことをしますよって約束しました。

だから、私が“吉本に行きます”と言ったときも、協力はできないけど邪魔はしないよ、という感じでした。まさか私が芸人になるなんて思ってもなかったと思います。私も思ってなかったんですから(笑)」

おばあちゃんが現在所属する神保町よしもと漫才劇場は、東京吉本の若手芸人が所属する劇場。そのため、お客さんも若者が多く、ネタを作るうえで世代のギャップに悩むことがあるという。

「私の言葉で書くと伝わらないっていうことが、けっこうあるんですよ。でも、逆に若い子が言っている言葉はわからない。そういうときは、作家の山田(ナビスコ)さんに教えてもらってます」

NSC卒業後、山田氏が担当する舞台に出演することが多かったという、おばあちゃん。芸人としての活動をするうえで、山田氏の存在が大きいようだ。

山田さんには、ネタについてだけじゃなくて、補聴器のイベントで耳に関係する川柳を作ってきてくださいとか、オレオレ詐欺防止のイベントでオレオレ詐欺に関係するネタを考えてくださいとか、どうしたらいいのか見当もつかないものを考えなきゃいけないときに、よく相談をさせてもらってます。

でも、“おばあちゃんの場合、笑ってもらおうと思わなくていいよ。自分が楽しむことが一番いいことだから”と言ってくださったのは、すごく記憶に残っています。

あと、山田さんに個人的な話をしたことはなかったんですけど、“自分の歩んできた道をどこかで説明したらどう?”って提案してくださったんです。本社の方とお話する機会を設けてくださって、それが本の発売につながりました」

憧れの綾小路きみまろさんは年下!

孫ほど年が離れた芸人たちと関わるきっかけを作ってくれたのも、山田氏だという。

「NSCを卒業するちょっと前に山田さんの紹介で、素敵じゃないか(当時はバニラボックス)さんの単独ライブの幕間のVTRに出演させていただいたんです。

公園で撮影したんですけど、お昼過ぎにお二人が“おばあちゃん、お腹空いてる?”って聞いてくれたから、どんなロケ弁が出てくるんだろう?ってワクワクしちゃって。だけど、“お腹空いたらいつでも言って! カップラーメン買ってきて、お湯ももらってくるから”って言われたんですよ(笑)。

そのときは“大丈夫です”と言ったんですけど、こういう優しさがあるんだなって、今までテレビで見てた芸人さんとは違う人間像というか、温かさを感じました」

今ではすっかり劇場の仲間とも打ち解けたおばあちゃん。

「年寄りって嫌われると思ってたんですよ。でも、皆さん本当に温かく接してくださって、ありがたいです。先日も楽屋で“おばあちゃんバズってたね!”って言われて、なんのことかわかんなかったんですけど、どうやら狛犬の櫛野さんに言われるがまま撮った写真がバズっていた? みたいで。

あと、“若い人にはがんばってほしいんだよ”なんて楽屋で話してたら、“おばあちゃんを除いてまだみんな若いよ”って(笑)。皆さんプロだから、そうやって一つひとつ全部のことを笑いにしてくれる。本当に温かい方々ばかりです」

この一年、たくさんの人と関わったおばあちゃんに、一緒に仕事してみたい人を聞いた。

「綾小路きみまろさんです。でも、きみまろさんは私より年下なんですけどね」

77歳になった現在も新たな発見ばかりだというおばあちゃん。人生で大切にしていることを聞いた。

「ものを無駄にしないことです。戦後で食べるものがなかった時代を経験してますから、特に食べ物を無駄にしないというのは大切にしています。すぐに使うものだったら、手前においてあるものから買いますし」

自分のやりたいようにやればいい

おばちゃんは現在、まだ女性の地位が低かった時代のなかで、初めて法曹の世界に飛び込んだ一人の女性を主人公に描いた、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)に夢中になっていると教えてくれた。

なにかをしようと思ったとき、女の子はしなくていいって押さえられてしまう時代だったんです。私も子どものときから大学に行きたいと思っていたんですけど、女の子は学校に行かなくていい、洋裁・和裁をやりなさいって。

そうやって押さえられた人生だったから、やりたいことをあんまり口にしたらいけないんだ、というのは心の中にずっとありました。私が働き始めたときも、近いものがまだまだ残っていましたからね。だから“わかる! わかる!”って言いながら見ています(笑)」

また、そんな時代を生きるなかで学んだことも教えてくれた。

「物事はなんでも楽しんでやることが大切。昔は女だからって給料も安かったし、何かするって言うと“女だからダメ”って言われたんですよ。ふんぞり返る男の人に一生懸命、お茶を運ばないといけない。

ふざけなさんな!って思っていたけど、それも楽しんでやればいい。結局、誰かがやらないといけない仕事なんだから、この人は苦いのが好きだなとか、この人は薄いのが好きだ、この人は猫舌だから気をつけよう……そう覚えるだけでも楽しいじゃないですか。イヤイヤやってたら何も続かないでしょう?」

▲物事はなんでも楽しんでやることが大切です

これまでさまざまな経験をし、今ではお笑い芸人という新たな挑戦を続けるおばあちゃん。最後に読者に向けてメッセージをもらった。

「若いうちだったら何回でも修正できますから、やりたいことをやればいいと思うんです。ただ、人のせいにはしないでね。“親が言ったから”“あの人が言ったから”じゃなくて、自分がやりたいことをやればいい。

人の言うことに乗っかって失敗したら“親が言ったからだ”“お前が言ったからだ”ってなっちゃう。とにかく人のせいにしないで、自分のやりたいように。そうすればなんでも楽しみながらできますからね」

(取材:梅山 織愛)


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