『ブルーモーメント』ラストは“求められていた”展開に さらなる拡がりを予感させた最終話

史上最強クラスの超大型台風の上陸を前に、遠隔豪雨が発生。刻一刻と変わる状況の解析を進めていく晴原(山下智久)を筆頭に、SDMメンバーたちは連携して事態に対処していく。しかし突如起きた道路の陥没によって、SDMの活動で初めて一般市民の犠牲を出してしまうのだ。6月26日に放送された『ブルーモーメント』(フジテレビ系)は最終話。悲しみに暮れる遺族を前に、立ち尽くすことしかできないSDMのメンバーたちは、新たな犠牲を生まないため、上陸する台風に備えるのである。

原作コミックにおいてもクライマックスに東京を襲う超大型台風の脅威が描写されていたが、そこで起きたのは都市部に甚大な被害をもたらす高潮であり、それらの具体的な描写は見開き4ページほどで、かつ台詞を排するかたちで、あくまでもそれに向けた晴原の備えの部分に重きが置かれていた。しかし映像化するに当たっては、“見せる”ことは避けられないものであり、かといって都市部への高潮描写はハードルが高い。また少なくともSDMというチームの物語に脚色されている以上、今回のようなストーリーの運びになることは必然だったといえよう。

風速70メートルの超大型台風が人も車も、ひいてはSDMの指揮車両までをも吹き飛ばし、さらにビルにそれが突っ込むことでビルの一部が崩落。雲田(出口夏希)がそれに巻き込まれてしまう。どのようにして助けるかを考えた結果、晴原が導きだしたのは“台風の目”のなかに入って風を避けながら現場まで移動し、わずか27分(途中で滞在可能時間が短くなるので25分ということになる)ですべての要救助者を搬送する。多少大げさになりつつも、災害の脅威とそれに必死で抗う者たちを可視化させることこそが、このドラマの根幹にある「自然のなかで人は無力である」というテーマを証明することになるのである。

その一方で、時間内に救助にあたるという制限下での緊迫した活動を遂行して以降の展開は、極めてシンプルにまとめられていく。救助された雲田の容態が安定するまでの過程には大げささを求めることなく、それまでのシーンと比較するとまさに台風が過ぎた後の静けさのように運ばれるのである。こうした強弱の付け方は、ある意味で視覚的なダイナミズムを重視したフジテレビドラマらしい部分といえるだろうか。そして、立花(真矢ミキ)からSDMの正式運用の話を持ちかけられた晴原は、まだ対応しきれない災害があることを理由に粛々とそれを辞退する。

たしかにこれまでこのドラマで描かれてきたのは雪崩に始まり、風によって拡大する火災、想像を絶する降雹、土砂崩れに線状降水帯や台風。他にも地震によって孤立した集落にいかに救援物資を届けるかという課題まで、実にさまざまな災害にかかわるトピックを扱ってきた一方で、津波や火山の噴火などは扱われてこなかった。“自然災害”と呼ばれるものをひとしきりカバーしたところでも、人智を超えた何かが起こりうることこそ自然の脅威であり、あくまでもそこに諦観することなく、また可能なことだけに驕るのでもなく、まだ立ち向かう余地があることを認めて“抗っていく”。それこそが先述した根幹にあるテーマへの、ひとつのアンサーであるわけだ。

ラストでSDMの活動にかかわる者たちが皆で揃い、大勢で“ブルーモーメント”の空の下に集まる様子は、このドラマに最も求められていたもの。ここではもうひとつ、ワンマンで機能していた組織に後継を見出すことが拡大や持続への糸口となると見出されていく。それを踏まえれば、晴原の“弟子”であり“バディ”であり、なによりも第1話からはっきりと成長を遂げた存在である雲田の救出に特化した最終話は、この『ブルーモーメント』というドラマのさらなる拡がりを予感させるのである。

(文=久保田和馬)

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