ジェラード、ランパード、オーウェン…イングランド黄金世代が輝けなかった理由

ハリー・ケイン、ブカヨ・サカ、フィル・フォデン、ジュード・ベリンガム、デクラン・ライス……。

EURO2024を戦うイングランド代表は、前線から中盤にかけて多くのワールドクラスを揃える同国史上屈指のスター軍団だ。当然、今大会では国民からも悲願の初優勝を期待されている。

振り返ると、2000年代~2010年代にかけてのイングランドも、スティーブン・ジェラードやフランク・ランパード、リオ・ファーディナンドといった名選手を擁し、現在のチームに引けを取らないタレント集団だった。

しかし、その「ゴールデン・ジェネレーション」は、メジャートーナメントでことごとくファンの期待を裏切り、1966年ワールドカップ以来となるタイトルをもたらすどころか、国民に失望を与えたチームとして歴史に名を残すことになる。

そんな「イングランド史上もっとも派手に期待を裏切った世代」は、はたしてどんなチームだったのだろうか。

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何ひとつ勝ち取れなかった。何も成し遂げられなかった。

タレントは間違いなく揃っていた。ワールドクラスの名手が、それこそ綺羅星のごとく居並んでいた。CBはジョン・テリーとリオ・ファーディナンド、左SBはアシュリー・コール。中盤にはスティーブン・ジェラードとフランク・ランパード、前線にマイケル・オーウェンだ。1978~80年生まれのこの世代は、まさしく「ゴールデン・ジェネレーション」だった。

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それなのに、何ひとつ勝ち取れなかった、何も成し遂げられなかったのだ。この世代が中心となって戦ったメジャートーナメントは、ワールドカップもEUROもベスト8止まりだった。

ワールドカップは2006年がベスト8で、10年はベスト16、14年はグループリーグ敗退に終わった。EUROは04年と12年がベスト8で、08年は予選で敗れ去っている。輝かしいはずの黄金世代は、イングランド代表史上もっとも派手に期待を裏切った、輝けなかった世代として記憶されている。

チームとしてまったく機能しなかった。まとまりがなく、ずっと烏合の衆でしかなった。クラブチームでのライバル関係が、そのまま代表に持ち込まれていたのだ。プレミアリーグでの熾烈な争いによって醸成された敵対心は、簡単には溶解しなかった。

代表のチームメイトは、仲間ではなく競争相手のままだった。リバプール勢、チェルシー勢、マンチェスター・ユナイテッド勢と、ロッカールームはクラブごとに派閥が割拠するそんな状態だったという。リバプールのジェラードにしてみれば、ユナイテッドの選手たちは同じ代表のユニホームを着ても、憎むべき宿敵でしかなかった。当時の心情を引退後にこう明かしている。

「(ユナイテッドとの対戦時に)リオやガリー・ネビルとトンネルに並んでいると、なんとしても倒してやろうと、強い感情が込み上げた。それは憎悪だった。だから代表で一緒になっても、友好的なふりをしているだけだった」

リオもこんな打ち明け話をしている。ランパードとの関係性についてだ。「俺たちは同じウェストハムのユースで育った。なんでも一緒に乗り越えてきた。やがて俺はリーズに行き、それからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した。フランク(ランパード)はチェルシーに行って、その頃にはもう関係は途絶えていた。コミュニケーションはまったくなくなった」

そしてこう続ける。

「(クラブの)勝利がすべてで、それだけで頭がいっぱいだった。フランクに弱みを見せたくなかった。スティービー(ジェラード)に対しても同じ。リバプールと優勝を争っていたとき、代表で一緒になっても隣に座ってビールでも一杯、なんて気持ちにはなれなかった。リバプールのことは何も聞きたくはなかったし、だから打ち解けることもなかった」
バラバラな黄金世代の心と心を繋ぐ、求心力を持ったリーダーもいなかった。イングランド代表史上初の外国人監督となったスベン・ゴラン・エリクソンも、その後任のスティーブ・マクラーレンも、2人目の外国人指揮官のファビオ・カペッロも、その後を受けたロイ・ホジソンも、当時の監督は誰ひとりとして、選手の気持ちを代表に向かわせ、チームとして結束させる説得力、カリスマを持ち合わせなかった。

ジェラードは言う。

「振り返って思うのは、選手をはるかに凌駕する存在の監督が欲しかった。クロップやグアルディオラやモウリーニョのような、チームをさえはるかに超越した監督だ。ゴールデン・ジェネレーションの上に立ち、厳しい決断を躊躇なく下すことができる人がいたら、あのグループはもっともっと輝いただろう」

輝けなかったこの黄金世代に功績があったとすれば、それは貴重な教訓を残したことだろう。選手たちが「イングランド代表」への誇りと帰属意識を強く持ち、チームの一員であることに喜びを見出す、そんな代表の在り方を理想として掲げたFA(イングランドサッカー協会)は、ユース年代の育成方針を転換した。現場の第一線でその取り組みを主導したのが、ガレス・サウスゲイトだ。

サウスゲイトが率いるイングランド代表はいま、その薫陶を受けた新世代の選手たちがスリーライオンズ(代表の愛称)への誇りと帰属意識を胸に、チームとして強く結びつき、栄冠に向かって力強く歩を進めている。

※ワールドサッカーダイジェスト5月2日号の記事を加筆・修正

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