50cc以下原付の生産終了へ…ホンダは電動二輪実用化に巨額投資(重道武司)

スーパーカブ50(提供写真)

【経済ニュースの核心】

「絶対売れる。月3万台だな」。1958年、創業者・本田宗一郎が開発した試作車を一目見るや、大番頭の藤沢武夫はこう断言したという。

藤沢の予言は一つは的中し、もう一つは外れた。「スーパーカブC100」と名付けられた初代市販車は、60年には年間55万台以上が出荷され、月間約4.6万台ペースという驚異的な売れ行きを記録するからだ。シリーズ累計出荷台数1.1億台超。「世界で最も売れたバイク」といわれる。

■「原チャリ」は2025年5月で打ち切り

ホンダが「原チャリ」の愛称でも親しまれた、50㏄以下の原付(原動機付き自転車)一種の生産を2025年5月で打ち切る方針を決めた。同クラスのバイクの生産をホンダに委託しているヤマハ発動機も販売を終了する見通し。スズキも追随するとみられる。

生産打ち切りの理由となったのは排ガス規制の強化だ。25年11月から一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)の基準値が厳格化される。排ガスを浄化する役目を担う触媒の機能を向上させれば対応できるが、開発コストが「跳ね上がる」(関係者)。

販売価格に転嫁すれば「原付二種」と呼ばれる50㏄超~125㏄以下クラスの車両価格を上回ってしまう可能性があり、これ以上の生産継続は「非現実的」(同)と判断。国内出荷台数も23年で9万2824台とピークだった1982年の278万4578台に比べ30分の1に落ち込むなど市場が縮小していることもあって撤収に踏み切る。

ホンダの二輪車事業は24年3月期で営業利益約5562億円。四輪車事業の5606億円に匹敵する利益を稼ぎ出す。23年3月期には4887億円を計上、四輪部門の赤字(166億円)を埋めるなど経営の屋台骨を支える。

今後は50㏄超の国内販売や輸出拡大に経営資源を重点的に振り向けていく一方、電動二輪車の開発・実用化に精力を傾ける。21年から30年までに電動車に5000億円を投じる方針も打ち出しており、すでに昨年8月には国内初の個人向け電動スクーター「EM1e:」も発売した。

もっとも価格はまだ高く、操作性・利便性・快適性を兼ね備え、低価格で高燃費効率を実現した「スーパーカブ」並みの水準には程遠い。技術のさらなる深掘りと車両のつくり込みが急がれる。

(重道武司/経済ジャーナリスト)

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