【コラム・天風録】松本サリン事件30年

 読み書きの能力を意味するリテラシー。最近はネットリテラシーの言葉も聞く。インターネットを使いこなす知識や能力をいうが、大切なのは情報が正しいかだろう。きょうはメディア・リテラシーの日。長野県松本市のテレビ局が定めている▲30年前に松本サリン事件が起きた日である。猛毒サリンがまかれ、8人が死亡した。オウム真理教の犯行と分かるまで「犯人扱い」された河野義行さん。被害者なのに、警察に家宅捜索され、犯人視する報道が続いた▲かぎりなく黒に近い灰色だという予断のなかで、まるで「有罪」であるかのようなマスコミの大合唱にさらされた―。著書「命あるかぎり」に河野さんはつづる。嫌がらせや無言の電話が続き、脅迫の手紙も。報道陣にはフラッシュを浴びせられた▲警察の動きや不確かな情報に引きずられたメディア。無実の人を犯人と大勢が信じた。約1年後、オウムに捜査が入るとテレビ各局は問題があったとして謝罪。新聞も謝罪記事を載せた▲注意して「読む」よう、情報の受け手にメディアリテラシーは求める。だがまず正しい情報を「書く」使命がメディアにはあるはずだ。きょう改めて猛省し、発信していく。

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