トップインタビュー/大和ハウス工業 下西佳典取締役専務執行役員

大和ハウス工業は2024年4月1日付で、機構改革を実施し、大和リースを大和ハウス工業の流通店舗事業本部に編入する事業本部体制の再編を実施した。近隣型SC「Frespo(フレスポ)」、都市型SC「BiVi(ビビ)」、広域型SC「iias(イーアス)」など、全国に多様な商業施設を展開する大和ハウスグループの商業施設戦略について、取締役専務執行役員の下西佳典流通店舗事業本部長とSC事業部の増田尚嘉事業部長に聞いた。

機構改革で大和リースとの協力関係をより強固に

――まず、今回の組織変更の狙いを教えてください。

下西 流通店舗事業本部が事業本部制になって2年が経過しました。今年、3年目を迎えます。大和リースは、昨年度までは関連事業本部にありましたが、今年度から大和リースも流通店舗事業本部の一員という形で組織が変わりました。より両社で協力して事業を進めようということです。

大和ハウス工業も大和リースも、元々は単独のロードサイド店舗からスタートしています。大和ハウス工業は1976年に流通店舗事業を発足しています。大和リースも店舗リース部門が発足して、当初は競合している部分もありました。

現在、大和リースでは、Friendly Spot(親しみがわく場所)を意味する地域密着型の商業施設「Frespo(フレスポ)」を全国に108カ所、Brilliant Vivid(生き生きと、光り輝く)を意味する駅近隣の都市型商業施設「BiVi(ビビ)」を12カ所、樹の枝を意味する地域コミュニティを育む商業施設「BRANCH(ブランチ)」を12カ所展開しています。近年、大和リースは、大和ハウス工業との棲み分けを図るため、行政に関係する公用地の再生・利用をPFIも活用しながら進めてきたので、ブランチの開発が増えています。

※PFI(Private Finance Initiative)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等に民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することにより、同一水準のサービスをより安く、又は、同一価格でより上質のサービスを提供する手法。

――大和ハウス工業が展開する商業施設を教えてください。

下西 大和ハウス工業では、大型複合商業施設「iias(イーアス)」「FOLEO(フォレオ)」などを中心に展開しています。また、グループには、商業施設・ショッピングセンター・オフィスビルなど商業用不動産の賃貸・管理・運営や都市型ホテルなどを運営する「大和ハウスリアルティマネジメント」があります。大和ハウス工業が開発・リーシングをして、大和ハウスリアルティマネジメントが運営を担う「ACROSS(アクロス)」シリーズもあります。SCではない単独店舗(フリースタンディング)も含めて、商業施設の延床面積は、グループ全体で約460万m2になります。

大和ハウス工業は主に商業施設の開発を担っています。社内にはSC事業部があり、こちらでリーシングもしっかりやって、運営も大和ハウスリアルティマネジメントと一緒にやりながら、SCの開発・運営のノウハウを作ってきました。

――オーバーストアと言われる中で商業施設の商圏は縮小していますか。

増田 各商業施設の立地や競争環境によって、商圏は大きく異なります。例えば、「イーアスつくば」(茨城県つくば市)で見ると、いろいろ定義はありますが、週に1回以上来店される人と考えると、1次商圏は5km程度だと思います。ただ、集客できるマーケットとしては、茨城県の特性を考えると、20km圏はあります。一方で、神奈川県のように、商業施設の密度が高いエリアで考えると、アウトレットモールでない限りは、10km圏程度が集客できる商圏になります。現在、10kmを越えて、集客できる商業施設は少なくなっています。

<増田SC事業部長>

――近年の商業施設開発で実感する環境変化は何ですか。

下西 一番大きく感じるところは、入居されるテナントさんが減ってきています。以前は、1業種で何社も入居希望企業があり、10社くらいはありました。現在は、1業種1社か2社、多くても3社のような状況です。紳士服やメガネといった業種は、このような状況が顕著です。

――テナントリーシングでの固定賃料と変動賃料の比率はどうですか。

増田 当社は、物件を開発する際、個人の建築主がいるスキームが多いため、固定賃料が主流です。一部の大型複合施設で、売上歩合による変動賃料があるくらいです。ただ、コロナ禍で、売上変動リスクが顕在化しました。そこで、固定賃料よりも変動賃料のみで借りたいというテナントさんが増えています。変動賃料ならば、売れなければ売れないなりの賃料になるメリットがあるからです。

<大型複合商業施設イーアス>

コロナ禍でアパレル・飲食はSC出店を厳選

――業種別に見たテナントリーシングの傾向はどうですか。

増田 コロナ禍もあり、アパレルの出店意欲は弱くなっています。旧百貨店ブランド、旧繊維メーカー系の企業は、本当にいい場所以外には、出店しないようになっています。

――コロナ禍では、飲食店テナントも打撃を受けました。

下西 コロナ禍では、国から外出や外食への規制があったので、飲食店も大きな打撃を受けました。ただ、コロナが5類分類になり、外出も自由になって1年経ったので、上場企業は決算も回復してきています。一方で、原材料価格や人件費などが上昇し、売価への転嫁も課題です。いままでよりも、出店場所を厳選されていると思います。

増田 体力のある大手チェーンと淘汰される企業の格差が生まれています。また、不動産の目線で見ると、飲食店は個人でも経営できるので日本で一番、すそ野が広い業界でもあります。すると、いまは居抜き物件が増えているので、新たな循環が始まっています。当社のSCでも、自前で1店舗を運営している飲食店の方が、居抜き物件であれば、2店舗を出したいという方が、増えています。

――飲食店テナントのフードコートへの出店意欲はどうですか。

増田 フードコートの出店、単独路面店の出店、それぞれの良さがあります。フードコートでは、1業種1社のリーシングが多いため、競争が穏やかという利点はあります。一方で、集客はSC自体の集客力に左右されます。また、フードコートでは、アイドルタイムに閉店はできません。その分、販売管理費が上昇します。

単独路面店は、いつでも競合他社が出店してくる可能性はありますが、アイドルタイムは閉店もできます。チラシも単独で打てるため、SCに頼らず集客できる。コロナ禍のような規制がある状態でも、企業の判断で営業するかどうかを決定できました。各社で、それぞれのメリットを考えた出店をされていると思います。

――集客力のある業種の変化をどう考えていますか。

下西 近年は、コト消費ということが注目され、単なる物販だけでは集客に限りがあります。例えば、体操教室などのサービス業種も増えてきました。物販、飲食、サービスという3つの大きな業種の割合が変化してきています。

増田 SCの規模にもよりますが、例えば、リース面積が、約1万6,000m2の商業施設で見ると、物販は、まだ6割ぐらいの販売構成比があります。スーパーマーケットを核にしながら、ドラッグストア、カジュアル衣料、100円ショップもあるので、物販がやはり主力です。そこに、飲食店やカフェが続くイメージです。生活に必要なものがワンストップで買える利便性から、ヘアサロンのようなサービスも伸びています。

<地域コミュニティを育む商業施設ブランチ>

買い物環境整備でECにないリアル店舗の価値訴求

――ECサイトが伸長し、リアル店舗の来店価値が問われています。

増田 ECサイトに対して、決定的な施策があるわけではありません。ただ、女性と男性で、買い物心理が違うことに着目しています。男性は、買ったモノに対して満足感を得ます。一方で、女性はいろいろ品物を見定めたり、モールの場合は色々な店を歩いて比べることなど、買うまでのプロセスを楽しむ傾向があります。

そういった視点からすると、一つは買い場の環境、商環境をどのようにほかの施設と差別化するか。例えば、子どもを少し遊ばせるようなプレイランドを併設させるなど、各デベロッパーでいろいろ工夫がされています。当社も、そういった施策を進めています。

――買い物環境では、どんな取り組みがありますか。

増田 ターゲットをどこに置くかで施策は違ってきます。現在、デベロッパー各社は、共用通路を拡大したり、共用広場を展開したり、いろいろと居心地を良くすることを重視しています。建設コストが上がる中で、共用部をどう充実させるのかは、少し悩ましいところですが、施設づくりとしては有効な施策だと思います。

また、テナント自体がECに対応した施策を打ち出しています。例えば、一部の食品スーパーでは、Amazonと共同でネットスーパーを展開しています。一方で、デリカテッセンでは、香りや音などでライブ感のある売場づくりをするといった取り組みがあります。テナントも生き残りをかけて、さまざまな施策を打ち出しています。

――建設コストの上昇が、あらゆる業種で課題になっていますね。

下西 肌感覚で言うと、1年半ぐらい前と比べると建設コストは1.5倍くらいになったと感じます。資材、人件費のほか、工事の集中などで、コストが上がっています。色々な現場があり、極端な事例では、下請け業者を探すことが難しくなっている。ゼネコンがサブコンに委託することが難しくなってきています。すると、需要と供給のバランスで、委託費用の価格も上がり、人件費も上がります。

コロナ禍で、約4年間、さまざまな工事が止まってしまった部分が、いま動き始めています。建設市場全体で見ても、職人不足が顕在化しています。都内を見て、あちらこちらでクレーンがいくつも上がって、工事をしている状況で、根本的に下がる要素がありません。いまのままだと、ここ数年は、極端に建設コストが下がることはないと思います。

――建設コスト上昇で、どんな影響がありますか。

下西 建設コストが上昇すると、リーシングでの家賃、最後のところに踏み込まざるを得ません。家賃を上げないと多分デベロッパーが疲弊してしまいます。そこで、いままでだったら壊していた施設を再生することに着目しています。

増田 建設コストが高いということは、結局デベロッパーとしては賃料に跳ね返らざるをえません。そうするとテナントは高い賃料を払わざるを得ません。再生の場合は、基本の躯体はあるので、新築よりも安く仕上がります。そうすると、出店されるテナントの出店コストを、賃料含めて抑えることができます。解体の場合の産業廃棄物や余計なCO2の排出もなくなります。

<インタビューに応える下西取締役専務執行役員>

人口減少下で既存商業施設の再生に着目

――人口減少が続きますが、出店余地はまだありますか。

下西 2000年から、大規模小売店舗法から大規模小売店舗立地法に変わり、規制が緩和され、大型商業施設が出店しやすくなりました。1992年には、借地法が借地借家法に変わり、複数の地主から土地を借りることで開発しやすくなりました。そのため、この20年間で、多くの商業施設が開発できました。

一方で20年間というのは、契約満了の期限がくるころです。また、契約とは別に、テナントの入れ替わりがあります。20年前に作った商業施設は、核店舗を含めてテナントの入れ替えが起きています。今まで、2つ、3つと近隣型ショッピングセンター(NSC)が、成立していた商圏でも、全てが生き残ることは難しくなっているため、商業施設の床面積が増えていく時代は終わったと感じています。

――出店余地があまりない中で、どんな開発をするのですか。

下西 根本的には不動産の価値にもよりますが、約5kmの商圏で人が住んでいるところに、マーケットにあったサイズの商業施設を作ること、スーパーマーケットを中心に、日常使いの商品を販売する店舗を集めたNSCが開発の中心になると思います。

増田 広域型の「イーアス」ができる場所があれば、開発しますが、主な戦略はNSCとなります。

――人口がある地域は、すでにオーバーストアではないでしょうか。

下西 そうです。すでに商業施設があるところで開発することが大前提になります。

増田 建物自体を建て替えするスクラップアンドビルドも含めて、既存の商業施設の大規模リノベーションで、新しい商業施設を開発します。

――注目する立地を教えてください。

下西 都市部、地方ともに、1丁目1番地のような一等地に注目しています。やはり出店場所は、一番大きな要素になります。

――一等地を探すために、どんな施策がありますか。

増田 当社は、北海道から沖縄まで、全国に営業担当者を配置していることが、他のデベロッパーとの大きな違いです。全国に事業所があり、事業所ごとに少なくとも約5名以上の営業担当者がいます。エリアによっては、駅前が疲弊して一等地ではないこともあります。そこで、各営業担当者が、商業としての一等地を各エリアで探しています。

――地道な活動で情報を集めているのですね。

増田 例えば、築年数の経ったSCで、地元のスーパーマーケットなど有力なテナントがそこを借りたいニーズがあれば、我々がそこに対してアプローチして、施設を購入する、あるいは賃貸し、そこで再生事業を行っていく。そのようなシナリオで、SC自体を再生させています。

全国をスクリーニングしていますので、競合のSCのほか、SCではない複合施設も含めてライバル店を考慮した上で、現状、空白のマーケットがどこに存在するのかを調べています。NSCの商圏は、車で約15分圏、半径約3km圏で想定していますが、日本全国で見ると、まだ空白マーケットはあるため、そこをメインに、営業活動をしています。良い立地で、商業施設を再生し、社会貢献も含めて伸ばしていきたいという戦略があります。

――最後に、今後の大和ハウス工業の商業施設開発の方針を教えてください。

下西 既存施設の「再生」は、SDGsの考え方に合っています。新築の商業施設を作るだけの時代は、過ぎ去ったと感じています。当社は、事業施設・商業施設など非住宅分野の不動産ストック事業を拡大させるため、新ブランド「BIZ Livness(ビズ リブネス)」を立ち上げ、本年5月より本格始動しています。これからは再生事業を大きくしていきたいです。例えば、いま大手流通企業が店舗の閉店を進めています。建物賃貸借契約で施設を運営している場合、閉店した建物は、地主に残ります。ところが、解体費用だけでも10億円、20億円というお金がかかります。また、施設の維持費も大変です。すると、そのような施設を再生することは、大きな社会貢献にもなります。

当社では、広島県の「アルパーク」リニューアルなど、再生事業に関わってきたノウハウがあります。これからは、NSCの再利用も増えるでしょう。いま、地権者の方などに、いろいろとアプローチをしているので、再生する商業施設が増える予定です。再生する商業施設の近隣の方や来店するお客さまにも非常に役立つ事業になると思っています。

■下西佳典氏の略歴
1981年大阪経済大学卒業、同年に大和ハウス工業入社。2013年に執行役員、2016年に福岡支社長を経て、2017年に流通店舗事業推進部長、常務執行役員に就任。2020年に流通店舗事業本部長、2023年取締役専務執行役員に就任し、現在に至る。

■増田尚嘉氏の略歴
1988年広島修道大学卒業、1988年に大和ハウス工業入社。横浜流通店舗営業所を経て、2008年イーアスつくば開業の統括副支配人、2009年「SC事業部」発足と同時にリーシング業務を担うMD企画室室長に就任。2015年流通店舗事業本部SC事業部長、2021年流通店舗事業本部海外部北米担当部長を兼任し、現在に至る。

■大和ハウス工業の関連記事
大和ハウス/商業施設など複合開発「マールク新さっぽろ」完成

© 株式会社流通ニュース