『虎に翼』“梅子”平岩紙と家制度の戦いが決着 『ブギウギ』菊地凛子がサプライズ登場!

『虎に翼』(NHK総合)第64話はいわゆる伏線回収回だった。多岐川(滝藤賢一)とラジオに出演した寅子(伊藤沙莉)は、代議士の立花(伊勢志摩)に家庭裁判所の役割を説明する。その際、アナウンサーから出た「かよわいご婦人方」という言葉に寅子は反応した。「裁判所を訪れるご婦人は世の中の不条理なこと、つらいこと、悲しいことと戦ってきた。戦おうとしてきた、戦いたかった方たち」であり、決して「かよわい」存在ではない。「法律が変わり家庭裁判所ができて、誰かの犠牲にならずに済むようになった」とその意義を説いた。

ラジオ出演は設立間もない家裁の広報活動の一環で「愛のコンサート」の告知と出演者募集を兼ねていた。前作『ブギウギ』(NHK総合)からのサプライズ出演に対する期待は茨田りつ子(菊地凛子)の登場によってかなえられた。りつ子のやや気難しいキャラクターと独特の口調は健在だった。子どもをかわいがるりつ子は「愛の裁判所」のPRに適任である。

大庭家の相続争いは、想像の斜め上を行く形で決着した。サプライズの多かった第64話でもっともショッキングだったのが、大庭家の三男・光三郎(本田響矢)がすみれ(武田梨奈)と深い仲になっていたことである。心根の優しい光三郎は、かわいそうなすみれを放っておけなかったに違いない。すみれは遺産争いが紛糾することを見越して、若い光三郎をたらし込んだのだろう。

梅子(平岩紙)の心中は察するに余りある。夫の妾に遺産を持っていかれそうになり、一難去ったかと思えば、今度は息子を奪われた。この子だけはと手塩にかけて育ててきた子である。あまりにも人生は残酷で、どれだけ梅子を苦しめるのだろうとため息をついた。そのせいで、笑い声が画面の中からだと気付くのが遅れた。「あはははは」と高笑いする梅子は「もうダメ。降参。白旗を振るわ」と言い、相続を放棄すると告げた。

「私は全部失敗した。結婚も、家族の作り方も、息子たちの育て方も、妻や嫁としての生き方も全部」

妻また母として夫や姑の非情な仕打ちを耐え忍んだ末に、家族に裏切られる梅子は世間的には「かわいそうな人」かもしれない。神保(木場勝己)の反対によって改正後の民法に残された「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」の一文は、麗しい家族の絆を謳っているようだが、実のところ女性を旧来の家に縛り付けるものでもある。梅子は広い家の中で、たった一人で戦ってきた。相手は家制度という怪物である。夫が亡くなっても、姑の常(鷲尾真知子)や長男の徹太(見津賢)が梅子を支配しようとした。

誰もが梅子を頼り、梅子に依存しながら、勝手気ままにそれぞれの自由を主張する。子どもたちのために我慢する梅子へのとどめの一撃が、光三郎の背信だった。母として無償の愛を注いだことも、檻の中の自由でしかないのか。妾の存在は跡継ぎを産み、家を存続させるため社会的に黙認されていた。梅子にとって手痛いしっぺ返しであり、一個人が立ち向かう相手として「家」はあまりに強すぎた。聡明な梅子は、愛する光三郎がもはや自分の元にないと知った瞬間、長年の苦闘が徒労に終わったことを悟ったに違いない。

第13週「女房は掃きだめから拾え?」は梅子が家を捨てる話である。そこには、女性を縛り付ける制度への怒りが込められている。相続を放棄した梅子は「かよわいご婦人」ではなく、梅子自身がそうなることを拒んだ。再開した「竹もと」で語り合う寅子と梅子の姿に、女子部の仲間と議論した日々がなつかしく思い起こされる。母の形見の着物を諦めて、離婚成立を優先すべきか。当時、女性は無能力者とされていた。母であることを手放し、円満解決を優先したことで梅子は無一文に近い状態になった。けれども、梅子の表情は明るい。長い闘いの果てに、梅子は自らが望む自由、自分自身の人生を手にした。
(文=石河コウヘイ)

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