老舗百貨店・山形屋が踏み出す経営再建…待ち構える苦難の道「絵に描いた餅では金融機関が納得しない」 私的整理で〝復活〟果たした企業が明かす道のり

新規需要が増え2018年4月に増設したマルマエの工場。本社機能も翌年移した=出水市大野原町

 山形屋(鹿児島市)が私的整理の一種「事業再生ADR」を活用し、取引金融機関の支援を得ながら経営再建に取り組んでいる。鹿児島県内には、人員削減や事業の縮小など痛みを伴う改革を乗り越え、回復してきた企業がある。精密切削加工を手がけるマルマエ(出水市)は、県内で初めてADRを申請。トップが残って持ち前の技術力をさらに磨き、成長分野の半導体事業への転換で再建を果たした。

 マルマエは2011年にADRを申請。創業家の前田俊一社長(57)は「再建は簡単ではなかった。株は会社に譲り渡し、負債の一部は個人資産で弁済した」と回顧する。

 1965年創業の同社は設備力を強みに成長し、2008年に液晶や太陽電池の製造装置組み立て事業に進出。60億円かけ熊本県や埼玉県に工場を増設した。当時、太陽電池分野で年間100億円ほどの受注が見込まれていた。

 ただ同年9月、リーマン・ショックがあり受注はゼロに。先行投資と急激な為替変動で、09年の決算では7億円の純損失。事業の立て直しを急ぐも対応できず約25億円の負債を抱えた。

 一般的な私的整理と異なり、ADRは弁護士やコンサルといった第三者が関与する。メインバンクに負担が偏ることなく、取り引きのある金融機関へ平等に対処できるのが利点に映った。非公開で進められる特長もあったが、06年に上場していたことから申請は公表した。

 私的整理を含め、上場企業による再建でトップを残す前例は少ない。ただ金融機関の判断は「留任」。ADRは経営陣の退任で事業へ支障が出る場合、続投も認められる。高い加工技術を持つ前田社長が営業から管理まで、ほぼ一人で担っていた。

 再建に乗り出す中、一番の苦労は人員整理だったという。全従業員115人中23人をリストラ。うち17人が11年5月閉鎖の熊本事業所在籍。経営責任で役員2人が退任した。「人員削減は自力ではできなかった。第三者の介入があってこそだった」と振り返る。

 5年間の再生計画は、生産技術改善による効率化や半導体分野への転換が軸。行動計画には半導体での成長戦略を反映させ、売り上げなどの数値計画は盛り込まなかった。「現実的な案を示すため、売り上げは維持して経費削減で利益を出す内容にした。金融機関は絵に描いた餅では納得しない」と厳しさを語った。

 ADRでは、債権者の金融機関以外に影響はないとはいえ、不安感を示す発注先もあり前田社長が説明へ奔走した。自ら現場にも出て指導、生産方法や製品の値付けなどを抜本的に見直した。技術力の再構築が奏功し、半導体事業の新規受注も増え始め、14年には純利益3億円まで回復。計画を1年半前倒しで終えた。優先株も15年に全て買い戻し、再建を果たした。

◇老舗ホテルも私的整理でV字回復

 私的整理の一種「事業再生ADR」を申請した山形屋(鹿児島市)やマルマエ(出水市)以外にも、鹿児島県内では「私的整理に関するガイドライン」により不動産や事業の整理に苦悩しながら、再起のきっかけにしてきた企業がある。業種や手法は違えど再建への道は険しい。主な事例を振り返った。

 城山観光(鹿児島市)は、2006年に県内で初めて私的整理に関するガイドラインを利用した。不動産投資やホテル改修での借入金が経営を圧迫し、負債は600億円を超えた。

 金融機関の合意後、創業家は退任。債権の一部放棄や株式化、増資が支援の柱だった。県内外の不動産売却が予想以上に順調に進んだほか、主力のホテル事業や遊技業の収益も伸びたため、3年間の計画を2年で終えた。

 宿泊が好調で、19年3月決算では売上高91億9900万円と過去最高を記録。22年には、約100億円かけた耐震工事と改装が一段落した。新型コロナウイルス禍の影響はあったもののコロナの5類移行後は需要が伸び、富裕層の取り込みに備え1泊100万円の客室を新設。主力事業を中心にV字回復した。

 エヌシーガイドショップ(同市)も08年、ガイドラインに沿った再建に着手した。当時営業部長だった同社の田中信一郎社長(60)は、私的整理を「加盟店、会員、雇用を守れる手法だった」と述べた。

 これまで適用していたグレーゾーン金利が、06年に最高裁の判断で無効となり返還請求が急増、経営難に陥った。当時、約70億円のキャッシング利用があり、その利息のほとんどが過払いと見なされたという。

 負債総額は131億円。うち40億円を金融機関が支援した。10億円は債権カット、残りは株式への切り替えなどで圧縮。不動産も売却した。返済は順調に進んでいるものの、いまだに過払い金の請求が続き、ショッピング利用や不動産運用の収益で補てんしている。

〈関連〉私的整理を経て再建を果たした城山観光が運営する城山ホテル鹿児島=鹿児島市新照院町

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