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現在、J1リーグに新たな風が吹いている。初昇格したばかりのFC町田ゼルビアが、折り返し地点を迎えても首位に立っているのだ。こうしたフレッシュな話題は、他のリーグにもある。なでしこリーグのヴィアマテラス宮崎と、JFLの高知ユナイテッドSCの「シン・快進撃」の秘密を、サッカージャーナリスト後藤健生が探る。
■組織的な守備からの「カウンター」が威力を発揮
立ち上がりはクリアソン新宿がボールを握って、CKのチャンスを何度も作った。それに対し、高知Uは守備を固めた。
4人のDFラインがフラットにそろっていたし、中盤の4人も選手間の距離がきちんと保たれ、選手同士が距離を縮めることによって相手のボールに網をかけていく。非常に組織化された守備だった。
先制ゴールは17分に生まれた。
C新宿がつなごうとしたパスを高知ユナイテッドSCがカットして、小林心が緩急のリズムの変化で相手のアタックをかわしながら、そのまま一挙にドリブルで中央を持ち上がる。そして、小林は右に大きく開いて、そのまま一気にゴール前に上がり、右からのクロスを頭で決めて見事なカウンターを決めた。
さらに、22分、同じように自陣でボールを奪った高知Uは、右サイドバックの吉田知樹がドリブルで上がり、ボールは樋口叶を経由して小林に渡る。すると、C新宿のDF相澤佑哉がファウルで小林を止め、決定的得点機会の阻止で一発退場となった。
高知Uは、組織的な守備でボールを奪ってカウンターという形で1ゴールを決め、相手DFを退場に追い込んだのだ。
■同点とされるも「戦い方を変化させていった」
しかし、C新宿はすぐにDFを投入して、5-3-1のような形で守備を固めてきたので、高知Uはそれまでのようにカウンター主体の戦い方ができなくなってしまった。
案の定、高知は圧倒的にボールを握り続けたものの、効果的な攻撃ができず、さらに、38分にはCKからC新宿の米原祐に決められて同点とされてしまったのだ。
「さて、どうするのか……」
だが、高知Uはけっして焦ることなく、次第に戦い方を変化させていった。
後半に入ると両サイドバックを高い位置に張り出して、相手の守備をピッチの幅いっぱいまで広げ、左右からのクロスを入れ続ける。そして、62分にアタッカー2人を交代させて、攻撃の圧力を高めていった。
すると、選手交代直後のCKから2点目が生まれた。交代で投入された金原朝陽のCKは跳ね返されたものの、拾った金原が入れたクロスを宇田光史朗が決めて勝ち越し、さらに72分には佐々木敦河がミドルシュートを決めてC新宿を突き放した(87分にも、内田優晟が5点目を追加)。
「試合は生き物だから」と語るのは、高知Uの吉本岳史監督。高知出身で、名古屋グランパス、水戸ホーリーホック、横浜FCで活躍した指導者だ。
吉本監督は、選手個々のストロングポイントを発揮させ、チームのやり方を固定したりはせずに、相手によって、試合展開によって使い分けるのだという。
実際、C新宿戦ではカウンターから先制し、相手が少なくなって攻めあぐねながらも、次第に攻撃の形を変化させ、そして交代をうまく使って勝負を決めた。まさに会心の勝利だったはずだ。
■「簡単ではない」Jリーグ、WEリーグ」入り
トップリーグであるJ1ではFC町田ゼルビアという新興クラブが、徹底して勝負にこだわるサッカーで昇格1年目の優勝を狙う。昇格初年度のクラブの優勝は画期的なことだが、東京都のクラブのJ1制覇も初めてとなる。
そして、女子の2部リーグに当たるなでしこリーグでは、宮崎県にある人口1万5000人ほどの小さな町のチーム、ヴィアマテラス宮崎がハードワークで勝利を重ねて旋風を巻き起こし、多くの観客を集めている。さらに、Jリーグ空白県の高知ユナイテッドSCは、非常に組織的でクレバーなサッカーでJFLで独走状態を築いている。
こうして、日本のサッカーは戦術的な幅も広がるし、地域的にも全国津々浦々まで広がっていく。
人口が少ない地方のクラブは、観客動員力では大都市のクラブのような数字は残せない。地元に大きなスポンサー企業も存在しないから財政的にも苦しいはずだ。たとえば、高知UがJFLで2位以内に入ったとしても、観客動員力やスタジアム施設の問題でJリーグ入会資格が認められるかどうかは微妙なところだ。V宮崎のWEリーグ入りも簡単ではないだろう。
しかし、全国の都道府県にクラブが存在することは、日本サッカー強化のために大事なことだ。それによって各地のタレントを見逃さないようにすることができるからだ。
ライセンス規定をあまりに厳格に運用すると、こうした地方クラブの挑戦を妨げることになってしまう。ライセンス規定はより柔軟に運用して、地方からの挑戦に機会を与えたいものである。