都会でも“驚くほど鮮明に”天体撮影! Unistellar「ODYSSEY」レビュー

DGPモバイルアワード2024で技術/企画賞を獲得した「ODYSSEYシリーズ」をレビューする

「予備知識なしに、気軽に星を楽しみたい!できれば、明るい都会の空でも」。そんな夢を叶えてくれるのが、近年注目を浴びているスマート望遠鏡だ。 これは小型望遠鏡にカメラ機能(イメージセンサー)を一体化し、専用雲台を組み合わせた、スマートフォン向けの星空専用デジタルカメラのような存在といえる。

この分野のパイオニア的存在が、フランス・Unistellar(ユニステラ)社だ。同社最新モデルでは、スマートフォンの専用アプリから操作することで、星の知識が乏しくても、アプリから見たい(撮りたい)天体を選ぶだけで、自動的にその方向に向き、都会など明るい場所でも見事な星を捕らえることができる、夢のような望遠鏡といえる。

専用の三脚も付属。脚を広げて固定するだけで設置完了だ

そうした、スマートフォンを用いた映像撮影の幅を拡げる点が高く評価され、「DGPモバイルアワード2024」において「技術/企画賞」を受賞した。そこで今回、最新のUnistellar「ODYSSEYシリーズ」より、上位モデルの「ODYSSEY PRO」を実際に借りて使ってみた。

セットアップが簡単。三脚に乗せてアプリ操作するだけ

望遠鏡としては反射式で、ミラー径は85mm、焦点距離は320mmでF値は3.9と明るめ。台座は赤道儀ではなく上下左右に動く経緯台だが、もちろん、天体の追尾はきちんとできる。イメージセンサーは画素数やサイズは非公開だが、画素ピッチは1.45µmとコンパクトデジタルカメラより少し大きめ。写る範囲は約0.56×0.75度と、満月が画面いっぱいに写る感じだ。

反射式望遠鏡となっている

製品は大きめの箱に、本体と三脚が収まっている。重さは両方で約4kgと軽め。電源はバッテリー式で、USB Type-C端子から充電、最長5時間の利用ができる。モバイルバッテリーからの給電に対応するだけでなく、ODYSSEY PROをモバイルバッテリー代わりとしてスマートフォンを充電することも可能だ。

セットアップは、三脚を水準器で水平に保ったあと、望遠鏡を載せるだけ。そして、スマートフォンの専用アプリ経由でワイヤレス接続する。

モバイルバッテリーが使用可能

普通に晴れていれば、アプリ側のボタンを押すだけで、望遠鏡が自動的に場所や方向などを認識。そして星を検出して、完全にノータッチで高精度にアライメントを取ってくれる。条件により異なるが、ほぼ2分くらいでセットは終わる。

あとは、アプリ側でいま見えている主だった天体の一覧から、見たいものを選んでアイコンを押すだけでOK。すると、望遠鏡が自動的に動いて、その天体が視野の真ん中に導入される。

アプリから天体を選ぶだけで撮影できる

その過程も、ライブ映像としてスマートフォンの画面で表示される。待たされ感がないため、自分が導入しているような雰囲気も楽しめる。

都会でも「驚くほど鮮明に」天体撮影できる

スマート望遠鏡の魅力は、光学望遠鏡と違って、イメージセンサーが短時間に撮影したものを追尾しながら重ね合わせることで、 “目では見えない暗い天体” が写ること。さらに同機では、夜空のバックグラウンドと天体とのコントラストを自動的に調整することで、明るい都会でも、驚くほど鮮明に、天体を撮影できる。

露出時間による違い。左から、5分の1秒、36秒、96秒(Image:Kumio Yamada)

今回は横浜市内の自宅、横浜郊外、三浦海岸などで実際に使ってみたが、その見え味(写り)にビックリ。とくに2等星くらいしか見えない横浜市内でも、まるで大きな望遠鏡で撮ったような、迫力あるカラー画像を見ることができる。

夜にODYSSEY PROを使用している様子(Image:Kumio Yamada)

もちろん暗い場所では、さらに淡い星雲などもきれいに撮れるが、その差は意外に少ない。そのため、星を見るために暗い場所まで遠征するより、むしろ都会で、気軽に美しい星空が捕らえられることが、本機のきわめて魅力的な点といえる。

M51 子持ち銀河(Image:Kumio Yamada)

月(Image:Kumio Yamada)

撮ったものはスマートフォンと望遠鏡本体に自動保存される。さらに今回のODYSSEY PROでは、ニコンと共同開発した電子アイピースが付属しており、天体が写り、明るくなってゆく姿を、覗き込みながらリアルタイムに見られる。この没入感とリアルさは決してスマートフォン画面では体験できない、本機ならではの大きな魅力だ。

PROモデルでは電子アイピースを備えている

また、同社の前モデルと比べて、質量が約半分になっている。そのうえ、月や惑星など大きめの天体がきれいに写るようになった点も、大きな進化ポイントといえる。

知識がなくても使える、ちょっと贅沢な体験

多くの魅力をもった本機だが、唯一気になるのは価格。アイピースなしで約40万円、電子アイピース付きのPROは約60万円であり、個人で購入するにはハードルが高いかもしれない。

M8 干潟星雲(Image:Kumio Yamada)

M27 亜鈴状星雲(Image:Kumio Yamada)

しかし、「天体の知識がある人が、さらに高価で持ち運べないほど大きく重い望遠鏡で撮ったもの」に近い体験が、この価格で知識なしに楽しめるのは、きわめて大きな魅力。これを4kg程度で持ち運べる望遠鏡で、自宅の庭からでも、スマートフォンからボタンひとつで楽しめるのは痛快でもある。

星空が好きで興味はあるけど深い知識はない方、都会からでも時間があるとき自分のペースで星空を楽しみたい方に、特にオススメしたい。ちょっと贅沢だが、心を豊かにしてくれる、とても魅力的なアイテムといえる。

© 株式会社 音元出版