そして白目に…『ガラスの仮面』にも登場! 少女漫画のスーパーエリート男子が“恋愛で挫折するシーン”

『ガラスの仮面』第48巻(プロダクションベルスタジオ)

少女漫画ではときに容姿端麗、運動神経抜群のスーパーエリート男子が登場する。非の打ちどころがない彼らは女性からモテモテで、順風満帆な生活を送っているのだが、意外な場面で落とし穴に落ちることがある。それが“恋愛でのトラブル”である。

モテる彼らは、恋愛なんてお手の物と思っていることも多い。しかしいざ本気で好きになった女性がなかなか自分のことを愛してくれないと、それまで経験したことのない挫折を味わうのだ。今回はそんなスーパーエリート男子が恋愛がきっかけで挫折するシーンを紹介したい。

■スーパーアイドルが倒れるほどの挫折『ルナティック雑技団』愛咲ルイ

岡田あーみんさんの『ルナティック雑技団』は、主人公の女子中学生・星野夢実が想いを寄せる天湖森夜の家に下宿することで巻き起こるハチャメチャコメディだ。そんな本作にはかなり個性的な性格ではあるが、スーパーアイドルの肩書を持つ愛咲ルイという人気男子が登場する。

ルイはひそかに夢実に想いを寄せる学園のアイドルだ。女子生徒たちからは常に人気があり、本人曰く“人格者だし人望もあついし人気もある”キャラである。

それまで何をするにも学園でナンバーワンという自信があったが、森夜が現れてからはその人気が次第に奪われつつあり、ルイは森夜をライバル視していく。しかし自分の人生は森夜より優れていると思っており、“ぜったいぜったいボクの人生の方がすばらしい ぜったいぜったいに“と言うほどに、過剰な自信があった。

しかしある朝、夢実と森夜が一緒に登校する姿を見て、ルイは2人が付き合っているものと勘違いをし、衝撃を受ける。そのショックはすさまじく、ルイは地面に倒れ、飛んできた新聞紙の下に埋もれながら「ゆるすまじ天湖森夜 うおおおう」と地面に突っ伏すのであった。

まさに典型的な恋愛における挫折を経験するルイだが、その後は夢実と森夜がくっつくよう応援するなど、根はいいやつだ。夢実や森夜と出会わず挫折を経験していなかったら、そのまま痛いキャラクターとして大人になっていたのだろう。本作はかなりアクの強いギャグ漫画ではあるが、ルイの挫折と成長はつい応援したくなるような魅力があるのだ。

■結婚生活で初めての反省!? 『有閑倶楽部』菊正宗清四郎

一条ゆかりさんの『有閑倶楽部』に登場する菊正宗清四郎は、少女漫画界のなかでも突出したスーパーエリート高校生である。清四郎は大病院の御曹司で高校の生徒会長。5か国語を話し、成績はもちろん優秀で武道や運動神経にも長けている。このように何事も完璧にこなす彼はプライドが高く、基本的に恋愛に興味を持たないタイプだ。

しかしそんな清四郎が挫折し、反省をする回がある。それがコミック10巻に登場する「剣菱家の事情の巻」である。清四郎と同じ有閑倶楽部のメンバー剣菱悠理は、日本有数のやんちゃな財閥令嬢だ。ある日悠理の両親は優秀な跡継ぎを探すため、清四郎に婿養子になってほしいと頼む。将来の可能性に目がくらんだ清四郎はそれを快諾し、悠理と愛のない婚約をする。

その後義父の代わりとなって会長業に挑戦する清四郎だが、実際はなかなかうまくいかない。また腕力にも自信を持っていた清四郎だが、悠理から頼まれた師匠・雲海和尚との対戦では年寄りだとバカにしながら臨んだ挙げ句、和尚の「喝!!」の一攻撃によりあっさり完敗するのであった。

この経験により清四郎は上には上がいることを自覚し、これまでの自分を反省することになる。愛のない婚約ではあったものの、自分の思いあがった考えを大いに省みることになったのだ。

■冷血漢の人生を変えた少女との出会い『ガラスの仮面』速水真澄

美内すずえさんの『ガラスの仮面』に登場する速水真澄も、少女漫画界におけるスーパープリンスと言えるだろう。

真澄は大手芸能事務所・大都芸能の社長であり、幼少期から英才教育を受けてきた文武両道のイケメン社長だ。これまで欲しいものは実権や財力を使い何でも手にしてきたが、13歳の少女、北島マヤに出会ったことで自分の生き方がゆらぎ始める。

まず、マヤへの想いを自覚した真澄は“いや11歳も年下の少女だぞ…!”と、なかなか自分の気持ちを認めることができない。さらにマヤに好きな人ができたと知った際には、ショックでグラスを握りつぶして手を怪我している。

また宣伝のためにマヤの母を軟禁し、結果的に死なせてしまった際には、生まれて初めて罪悪感というものを覚えた。マヤとの出会いを通してこれまで崩れることのなかった心が大きく揺さぶられ、いくつもの挫折を経験することとなったのである。

そもそも真澄は高いプライドが邪魔をして、なかなかマヤに気持ちを伝えられない。それまで何事もクールにこなしていた真澄がマヤを目の前にすると、“冷血漢と呼ばれたこの俺が…”と何度もうろたえる。そんな姿は可愛らしくもあるが、なんとももどかしい。

自分の思い通りにいかない恋愛を目の前にしてうろたえるシーンは、読者にとって胸キュンでもある。それが人気作品である理由にもなっているのだろう。

今回紹介したキャラクターは、いずれも恋愛や結婚での挫折がなければパーフェクトな生活を送っていたかもしれない。しかし漫画に限らず、あまりにも順風満帆で失敗しない人生はつまらない。どうがんばっても自分の思い通りにいかない挫折を味わうことによって、人は成長するのだ。

完璧なプリンスが恋愛を目の前にしてうろたえる姿は、私たちにそんな教訓を教えてくれている気がする。

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