【社説】鹿児島県警の家宅捜索 報道の自由脅かす行為だ

 警察に都合の悪い記事のネタ元を探ることが、強制捜査の狙いだったのではないか。報道の自由を脅かす権力行使で、許されない。

 福岡市に拠点を置くインターネットのニュースサイト「ハンター」を運営する記者の自宅が4月、鹿児島県警の家宅捜索を受けた。捜査情報を外部に漏らしたとして、巡査長が地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕された事件の関連だったとされる。

 報道にとって、取材源の秘匿は基本原則である。危険を冒してまでも情報を寄せてくれる人がいるからこそ、政治家や行政といった権力を監視し、不正をチェックして報じることができる。最高裁も2006年、取材源の秘匿について「取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値を有する」との判断を示している。

 だからこそ捜査当局も、言論の自由、国民の知る権利を損なわないよう最大限尊重してきたはずだ。ところが鹿児島県警の捜査手法はこうした共通認識をないがしろにしており、到底容認できない。

 日本ペンクラブや日本出版者協議会などは「民主主義社会の根幹を脅かす深刻な事態」などと抗議声明を出した。全国の新聞社などの労働組合でつくる新聞労連は「捜査権の乱用にお墨付きを与えた」として、家宅捜索を許可した裁判官に対しても責任を問うている。もっともだ。

 ハンターは県警の不祥事を追及し、独自入手したとする内部文書をサイトに掲載していた。巡査長は、これらを流出させたとされている。ハンター側は内部通報だったと主張。捜索は令状も示されず違法だと訴えている。

 県警は記者宅で押収したパソコンから、あろうことか捜索容疑以外の取材源まで洗い出している。こんな捜査が認められていいはずがない。

 パソコンには、県警の前生活安全部長が、ハンターに寄稿している札幌市のフリー記者へ匿名で託した内部文書の画像が入っていた。その後、前部長は逮捕され、国家公務員法(守秘義務)違反罪で起訴された。

 前部長は情報提供の動機について、県警トップの野川明輝本部長が「警察官の犯罪行為を隠蔽(いんぺい)しようとしたことが許せなかった」と裁判手続きで説明した。野川本部長は記者会見で全面否定したが、曖昧な点も残り、納得できる内容ではなかった。こんなことでは警察への信頼が失われてしまう。徹底した真相究明が求められよう。

 ハンターによると、県警が市民の再審請求や国家賠償請求に備え、警察の不利になる捜査書類を速やかに廃棄するよう促す内部文書も存在していた。過去には検察側が新たに開示した証拠が無罪立証の決め手につながったケースもある。日弁連や再審請求関係者が猛反発するのは当然だ。

 警察庁は県警に対し、異例の特別監査を始めた。とりわけ、報道の自由を軽んじてまでも組織防衛を図る問題の根を徹底的に調べ、あぶり出すべきだ。身内意識を捨てて臨んでもらいたい。

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