JAXAなど、宇宙から雲の上下の動きを測定–世界初、気候変動予測の精度向上に期待

5月29日に打ち上げられた地球観測衛星「EarthCARE」(和名「はくりゅう」)に搭載された「雲プロファイリングレーダー(Cloud Profiling Radar:CPR)」の初観測画像が公開された。CPRは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と情報通信研究機構(NICT)が共同で開発した。

CPRは、周波数帯が94GHzのドップラーレーダー。6月12~13日に初観測を実施。日本の東海上にある梅雨前線上にある雲域を観測。雲の内部を捉え、世界で初めて、宇宙から雲の上下の動きを測定することに成功したという。

CPRのレーダー反射強度(左)とドップラー速度(右)の高さ分布を3次元的に示した図。雲の水平方向の分布は気象衛星「ひまわり9号」データを利用している(出典:JAXA、NICT、ESA)

CPRは上空約13kmに達する雲分布を捉え、高度約5kmより下の高さで「ドップラー速度」が下方向に大きくなる特徴が確認できたという。雨の滴の落下速度を示していると考えられると説明。こうした観測は、従来の観測地点が限られる地上や航空機のレーダーでした得られないものだったが、衛星に搭載されたCPRから地球全体を均一に観測できるとしている。

ドップラー速度は、救急車の通過時に音の高低が変化することで体感できる「ドップラー効果」を利用して、反射波の周波数のズレを測定(ドップラー計測)して、測定値から換算した対象物の速度。

CPRでさまざまな雲域を観測することで雲粒が降雨に成長する仕組みの解明に貢献できると説明。雲が気候システムに与える効果は、雲の高さや重なり方、種類などに大きく影響されることから、CPRで雲の高さ方向の情報を雲の上下の動きも含めて、世界規模で計測することで雲が気候変動に与える影響の解明にも貢献できるとしている。

EarthCARE(Earth Cloud Aerosol and Radiation Explorer)はJAXAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で開発。CPRのほかに「大気ライダー(ATmospheric LIDar:ATLID)」、「多波長イメージャー(Multi-Spectral Imager:MSI)」、「広帯域放射収支計(Broad-Band Radiometer:BBR)」を搭載している。雲のほかに、大気中に存在するホコリやチリなどの微粒子である「エアロゾル」を全地球的に観測して、気候変動予測の精度向上を目指す。

気候変動予測は、コンピューターでシミュレーションされるが、シミュレーションの正確さは、自然現象をいかに正確に反映しているかが重要になる。

気候変動予測に関係する自然現象のすべてが明らかになっているわけではないことから、現在の気候変動予測は不確実性があると指摘されている。不確実性をもたらす要因でとりわけ大きいとされているのが、地球の大気収支での雲やエアロゾルの効果と考えられている。

EarthCAREは、これまで十分に観測されてこなかった垂直方向の雲の粒やエアロゾルの分布、雲の粒が上昇、下降する速度を計測するなどして、雲やエアロゾル、その相互作用から放射収支のメカニズムを解明して、気候変動予測の精度を向上させることが期待されている。

今後は6カ月間、CPRの初期機能確認を進めた後で定常的な観測運用に移行する予定。データはJAXAのウェブサイト「G-Portal」などから提供される予定。EarthCAREに搭載される、残り3つのセンサーはESAが開発しており、ESAが初期機能確認を進めている。CPRとESAのセンサーを複合した画像も後日公開する予定としている。

EarthCARE(出典:JAXA、ESA)

関連情報
JAXAプレスリリース
EarthCARE/CPR特設サイト
EarthCARE特設サイト(ESA)
EarthCARE概要

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