【伊達公子】ウインブルドンでは全盛期のテニスを取り戻したチャレンジャーの大坂なおみに注目<SMASH>

7月1日からテニス四大大会「ウインブルドン」が始まります。今年は誰が大会を制するのでしょうか? 女子はイガ・シフィオンテク(ポーランド/世界ランク1位)とアリーナ・サバレンカ(ベラルーシ/同3位)が安定した力を見せています。シフィオンテクは1位在位期間が99週を超え歴代単独9位になるなど強さを発揮していますが、前哨戦をスキップしていますし、試合が芝のコートで行なわれることを考えると絶対的とまでは言えないでしょう。

芝のような球足の速いサーフェスに対応できる選手といえば、2022年優勝のエレーナ・ルバキナ(カザフスタン/同4位)、昨年優勝マルケタ・ボンドルソワ(チェコ/同6位)です。ルバキナはサービス力とフォアハンドが強力。ボンドルソワは左利きの強みを生かした回転のかかったサービスが相手を苦しめます。また、すごくパワフルでも器用でもありませんが、パワー負けしない安定したストローク力があります。ただし、2人ともプレーやメンタル的にもアップダウンが出やすいため、ダメな時はあっさりと敗れがちです。良いスタートを切れればテニス的には芝に対応できる能力があります。

全仏オープンでベスト4入りした17歳のミラ・アンドレーワ(ロシア/同24位)は、ウインブルドンではシードが付くため戦いやすくなるでしょう。昨年は4回戦に進出していますし、今回も勝ち上がっていきそうです。

世界2位のココ・ガウフ(アメリカ)も、ある程度上がって来るとは思いますが、速いサーフェスで優勝するにはフォアハンドをもう少し改良する必要があるでしょう。
全仏オープンでシフィオンテクと激戦を演じた大坂なおみ(同111位)は注目です。ウインブルドンにはワイルドカード(主催者推薦)で出るためシードが付きません。そのためどこまで勝ち進めるかはドロー運によりますが、あの試合を見る限りではテニスのレベルは全盛期に戻ってきています。

加えて、精神的には良い状態にあるように思います。以前は勝たなくてはいけないと、自分と格闘している感じがありました。それが出産を経た今、「できないのは当然」と受け入れることができ、自分に対するプレッシャーを捨てられているのでしょう。チャレンジする側にいられる安心がプラスになっているようです。

シフィオンテクとの試合で大坂は、フットワークやサービスが以前よりも驚くほど良くなっていました。劣る部分は精度と勝負勘からくるメンタルです。誰が相手でも、あの試合のテニスができれば、ベスト8や4の可能性も出てきます。

男子は優勝予想が難しいです。ヤニック・シナー(イタリア/同1位)、カルロス・アルカラス(スペイン/同2位)、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ/同4位)、誰にでもチャンスがあります。

昔は芝と言えば、ビッグサーバーやネットプレーの上手な選手が有利でしたが、現在の男子テニスはそうとは言えません。大会2週目に入った時の芝の禿げている部分がベースライン付近になっていることからも、ストローク戦が多くなっていることがわかります。現在はサーフェスの相性よりも、パワーのある選手が強くなってきています。上位陣の中から、誰が抜けるのか。勝ち上がり方も含めて注目していきましょう。

文●伊達公子
撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン

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